慌ててそのままバタリアに出てしまったけれど、一応自分も冒険者の端くれ。
鞄の中に紙兵やその他の触媒があることを確認して手近な古墳から様子を探ってみることにした。バタリアに一番近いのは南側の古墳だけれど、あそこは冒険したがりの我が儘お嬢様の護衛で人がひっきりなしに訪れるから幼女に悪戯するには向いてないと思う。
そう思って除外こそしないけれど後回しにする事にして、手近な場所から回ってみることにした。少女を連れて行くということを考えたら、絶対に氷河側の古墳はないし、可能性があるのは3カ所。
最近では若手の冒険者がバタリアを狩り場として使う事は殆どなくて、冒険者とすれ違う事も少ない。牙目当ての虎狩りも最近では下火で、バタリアをサーチしても移動中と思われる数名の冒険者がひっかかるだけだった。
ジュノから一番近い最初の古墳は誰かが入った形跡もなく、中をぐるりと一周してみたが人の気配はない。とにかく次へ。発見が遅れれば遅れるだけ少女が危ない。
幼女がいいという趣味は理解出来ないけれど、エルヴァーンのお姉さんに良くして貰いたい、なんていう趣味と根本は同じなのかもしれない。対象が変わるだけで、そういう差別はよくないのかもしれない。
と、思ったが。
幼女はダメだろ。
必死にバタリアを走って息を切らせて古墳に駆け込む。
出てこい変態エルヴァーン。
通路をゆっくりと下に降りていくと、微かに聞こえる泣き声。
心臓がぎゅっと掴まれたように痛む。足音を忍ばせて壁際に張り付いて様子を伺ってみると、見えるのは写真と同じ大きなエルヴァーンの背中。そしてその奥には泣いている少女がいた。
思わず息を飲む。
「うぅ、ひっく、おかあさん、はやく、おうちにかえりたい」
少女の涙声だ。
「さ、顔を上げて。もう心配いらねぇからな」
「でも、こわいよ。はやくおうちにかえりたい」
何が心配いらないだ、怖がってるだろ。
少しだけ震えた膝を深呼吸して落ち着かせる。
そして、意を決して。
「そこまでだ!変態幼女誘拐犯め!」
走って少女と変態エルヴァーンの間に身体を滑り込ませるも、エルヴァーンは違う方向を見たままだ。
「あれ?」
その瞬間、分かった。
異様な気配。変態エルヴァーンと同じ方向に視線を向ければ、そこに居たのは、ゆらりと起き上がる、骸骨。
「隠れてろ!」
その声で少女が駆けだした。
「あ!」
追いかけようにも目の前には骸骨。
くそ、と舌打ちする間もなく、変態が骸骨に挑発をかました。
「ちょ」
なし崩しに戦闘に突入され、変態と言えども見捨てる訳にもいかず愛用の千手院力王を肋骨の間に突き立てた。少しは動きを止められたかな、と思うもすぐに振り払われ、効いてるかどうかも分からない攻撃を何度も繰り出すハメになる。
モンクのようにはいかないけれど、なんとか骨を崩す事に成功して安堵のため息を漏らした。
同じように隣で変態もまた、緊張を解いた。
「あのさ」
「もう大丈夫だ」
何が。
そう言いかけたところで、通路の奥から先ほどの少女が顔をのぞかせる。
「オレはこの子を連れてジュノに行ってる」
「まて、誘拐犯」
「ハァ?」
心底不可解な顔をして変態エルヴァーンは笑い出す。
「誰がだよ」
「待てってば」
少女はしっかりと変態の手を掴んで、変態もまた少女の手を握って歩き出す。
なんとなく取り残された気がしながら、自分もまた彼らの後を追いかけた。
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