ご婦人と少女の感動の再会。
その間、逃げられないようにと変態の手を強く掴んだ。
「なんだよ」
「だって、逃げられたら困るし」
変態は鼻で笑って好きにすれば、と言った。
ルトが母子の光景を微笑ましく眺めながら耳打ちしてくる。
「よかったわねぇ、どこまで行って来たの?」
「エルディーム古墳」
「まぁ、よく分かったものねぇ、驚いたわ」
「それがね」
自分の言葉を遮るように、少女が振り向き、変態を指さして言った。
そうだよね、この人が古墳に連れて行ったんだよね。
「あのね、あのお兄さんが探しにきてくれたの」
ですよねー。
って、あれ?
「鏡を使うと、私のことが分かるって言ってたの」
「へぇ!」
少女の続いた言葉に反応したのはルトの方だった。
母子が何度もお礼を言って立ち去っていく背中を見ながら掴んだ変態の手を離すに離せずにいた。どうしようかと思っていたら、変態にさらに強く手を掴まれ見下ろされて一言。
「なぁ、逃げられたら困るし」
「えぇー」
絶望的なまなざしで変態を見上げたら、ルトが変態に向き直り軽くお辞儀をした。
助け船きた、と思ったのに変態の手は自分の手を掴んだまま離さない。ルトもそこに興味がないのか、それとも知っていて無視しているのかその話題には触れない。軽い虐めじゃないだろうか。
なんでこんな往来で手を繋いでいるのか。
最初に自分がそうしたのだ、と気付いて顔から火が出た。
「ごめん、離して」
「ダメ」
そんな自分たちを知ってか知らずか、ルトは彼の持っていた少女を見付けた鏡について興味を露わにし、彼に詳しく話を聞かせて貰えないかと打診した。
彼は少しだけ思案してから、鏡は彼の家に代々受け継がれてきたものであること、導きの鏡、といわれ色々な物事を示し、彼を導いてきたことをルトに話した。
当然だけど、その間自分の手はしっかりと変態によって掴まれていた。
「すばらしいわ」
ルトの尻尾が興奮を表している。
もう、帰りたい。
「その導きの鏡とやらは、きっと近東のものに違いないわ」
ルトは一人で納得すると、以前自分に申し出たように、彼にもまた情報の提供を求めた。
彼もまた、鏡に導かれてここに来たけれど分からないことも多いという理由でルトの申し出を受けた。
こうやってきっと彼女は色んな人に申し出ているんだろう。
自分だけじゃない。
最初から分かっていたのに、なんか色々きた。
頼られて、いい気になって。
自然と、涙がこぼれた。
「えっ、どうしたのフリッツ」
「あ、ごめん、いやちが」
さすがにルトが慌てた様子で困った顔をした。
困らせるつもりじゃなくて、違うんだと言うつもりが言葉にならなくて恥ずかしくてしゃがもうとした所を、いきなり変態に抱え上げられる。肩に抱え上げられ泣きながら戸惑う自分を優しく撫でる大きな手。
「母子再会に感動しちまったんだって、部屋送り届けてくるわ」
「まぁ、意外と涙もろいのね。じゃあ、鏡について分かったことがあったらすぐにでも知らせるようにするわね」
背後でルトと変態の会話を聞いてまた涙が溢れた。
鏡は見つかった。
自分の仕事は終わった。
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