träumend

 


 赤い絨毯の上、無造作に置かれたクッションを引き寄せて顔を埋める。

 腰を持ち上げ、後ろから無遠慮に突きいれてくるのは不滅隊が長、ラウバーン。先ほどまで聖皇ジャルザーンに跪いていた男が、今はラズファードの上で己が快楽を求めている。
 零れそうになる声を、布を噛んでやり過ごそうとしたのを見破られ、ラウバーンに両腕を強く引っ張られた。
 浮いた上半身と、突き抜ける強い刺激に無様に喉が鳴る。
 身体の内側を抉るようにかき回す、まるで蛇のような男。
 ジャルザーンとの行為は全てこの男に教えられたと言ってもいい。口淫、手淫に至るまで、ジャルザーンに施す全てを、この男がラズファードに教え込んだ。
 快楽さえも。
 それを聖皇ジャルザーンは知らない。
 後始末という名目で自室へ連れて行き、聖皇の吐きだしたもので汚れた身体を蹂躙するのだ。さも、それが当然のような顔で、こぼれ落ちる聖皇の白濁をすする。その行為はどこか魔物のようで、冷たい指が肌をなぞるたびに全てが奪われていく感覚に陥った。
 それが彼の言う後始末なのだと。
 そして、ラウバーンはそれが地位の違いだと言うように、ベッドの上では絶対に抱かなかった。
 床に押しつけられる身体は軋み、まるで蜘蛛の巣に捕らえられた哀れな餌のようにラウバーンによって全て貪り尽くされる。そして聖皇の残した全てがラウバーンに塗り変わって行くのだ。


 無理矢理上体を起こされ、顎を強く掴まれる。
「東方戦線で私が切り捨てた兵士は味方含め17名、この意味がお解りか」
 耳元で囁かれる掠れた声と、魔物のように伸ばされる舌。
「貴方の内で、己が欲望を吐き出した愚か者の数でござりまするぞ」
 楽しそうに喉を鳴らすラウバーン。
 先ほどのジャルザーンとの会話を聞いていたのだろう。部屋を出た振りをして、影に紛れて一部始終を見聞きしていたに違いない。どこまでも悪趣味な男だ。
「陛下と、貴様も入れて19だ」
 そう言うと、さも面白そうに笑い出すラウバーン。何がそれ程までに面白いのかと思う暇もなく、腰を落とされ、深くラウバーンが入り込んでくる感触に悲鳴を上げる。
「では、栄えある20人目を」
「何を…」
 片足を抱えられ下から突き上げられる苦しさに思わず床に突っ伏すと、頭を押さえつけられた。
「勘違いなされるな。明日よりこのラウバーン、聖皇様の命により暫し皇都を離れるが故、己の代理として貴方の世話役をお連れした次第。すぐに呼ぶことも可能ですが如何なされるか」
「後にしろっ」
「あれを呼べ」
「貴様、ラウっ」
 腰を深く押し込んできたラウバーンに身体が震える。
 合図を受けて視界に姿を現す不滅隊の女。ラウバーンの忠実なる部下アミナフ。床に押しつけられ、無様に喉を鳴らす自分の姿を目の前にしても、彼女は一言も発することはない。侮蔑の視線を浴びせてくることもない。
 ゆっくりと規則的に瞬きをする目が、まるで自動人形のようで生気がないと、そう感じる自分の方がおかしいのかもしれなかった。彼女は足音一つ立てずに扉から出て行くと、すぐに戻ってくる。
 待ち構えたようにラウバーンの動きが加速した。
「ひ、ぃ」
 喉が鳴り、唇の端から唾液が床に一筋伝う。
 背中で捕まれた腕がすべての自由を奪っていた。額を床に擦りつけ、揺さぶられるがままに腰を揺らす。身体の奥底にたまる熱が、じんと痺れを伴って広がっていくのを感じた。内臓をかき回される不快感も、冷たいラウバーンの指先も、その熱にすべて飲み込まれていく。
「あ、うぁ」
「連れてきました」
 アミナフの無感情な声が、部屋に響く。無機質だ。生きている人とは思えないほど、事務的な声。
 そして、不滅隊とは思えない、足音。
 顔を向けようと身を捩ったところで、不意に腕を乱暴に引き上げられ身体を起こされた。
「見よ、おまえの仕えるべき主を」
 足を開かされ、無様にラウバーンに後ろから突き上げられているのが、主だと。
 快楽に噎び泣き、溢れる唾液を拭いもせず、嬌声を上げているのが。
 息を飲んだ音が耳に届く。その間、背後で聞こえる肉の擦れあう音はやむことはない。
「あぁ」
 そう呟いたのは自分ではない。
 唇を噛みしめると、青い目の男と目があった。
 深い海の色。まるでそれは、水辺を思い出させる。
 その澄んだ色に苛立ちを覚え、目を反らすとラウバーンに今度は床に頭を押さえつけられた。腰だけを高く上げ、両の手は身体を支えることを放棄する。
 涙が溢れた。
 なぜ、溢れたか分からないまま、嗚咽した。
「そんな身体になっても未だ人のように涙を流されるか」
 涙が人である証なら、自分はいったいなんなのだろう。
 魔物のと成り果てた身体でも、血は赤い。
 こみ上げる何か。
 泣きながら腹の中に熱を感じた。
 それはじわりと広がって、楔が抜かれると同時に太ももを伝う。
 まるで使い終われば用はないといわんばかりに身体を離れていくラウバーン。人肌のぬくもりなどそこにはない。ラウバーンの冷たい肌は自分の熱を奪ってもなお冷たいままだ。まるで死人のように。
 中にはき出された熱だけが、ラウバーンの持つ熱。いったい毎日、何を植え付けられているのかという気にさえなる。
「後は任せる、リシュフィー」
 抑揚のないラウバーンの声に、頼りない返事が布越しに聞こえた。
 身体を起こしかけると、すぐに肩に布がかけられる。そして遠慮がちな手がラズファードをしっかりと抱えた。
「すぐに湯の用意をいたします」
 驚いて顔をあげると、リシュフィーと呼ばれた男はラズファードから顔を背けた。
 まるでそれは、見てはいけないものから目を反らすかのように。


 部屋には既にラウバーンも、アミナフの姿もなかった。
 
 

 

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