Torment

 


 静寂の戻ったジャルザーンの私室に大きなため息が響いた。
「何人だ」
 突然の言葉にラズファードが怪訝な表情をする。
「私の耳に届いておらぬとでも思ったか、何人と交わった」
「覚えておりません」
 目を閉じたラズファードの肩が震えた。
「…傷を見せてみよ」
 怒気を孕んだジャルザーンがラズファードの腕を乱暴に掴み、身に纏った衣服を引っ張った。その力に纏っただけの薄絹はあっさりと引き裂かれ、白く華奢な体躯があらわになる。
 息を飲むジャルザーン。
 ラズファードの胸から腹、そして下肢にかけて大きな傷跡が、まるで浮かび上がるかのように赤く線引かれていた。表面上の傷口は塞がっているものの、想像以上の傷にジャルザーンは言葉を失う。おそるおそるその傷口に指を這わしてみると、ラズファードは眉をひそめ、小さなうめき声を漏らした。
「感覚はあるのか」
 下衣で隠れている部分にまで指が伝うと、ジャルザーンはいつもそうしているように下衣を紐解き、床に落とす。傷口の赤い線は、太腿を斜めに伝い、真ん中ほどで大きく膨らみ止まっていた。止まった傷の裏側にあたる部分に手を這わせば、そこにも傷跡がある。
 相手はゆっくりとラズファードの身体を引き裂き、抉り、最後に腿を貫いたのだ。
「お前は政の才はあれど、戦場には向いておらぬ」
 ジャルザーンは何度も言い聞かせてきた言葉を繰り返す。
「その体躯では重き鎧を着ることも叶わぬ、その細腕では槌を振ることすら叶わぬ」
 腿の裏側を撫でていた手を少しずつ上にずらし、ジャルザーンは若いラズファードの柔らかい尻を掴んだ。ラズファードは何も言わず、立ったまま口を一文字に結び耐える。ジャルザーンの指が尻を割り開き、いつものようにそこに指をあてがえば、ラズファードは身体を大きく震わせ上擦った声をあげた。
「香油を」
「戦場に香油などあるものか」
「いうッ」
 言い切ると同時に、ジャルザーンは無理矢理指を一本押し込んだ。大きくラズファードの身体が跳ね、ジャルザーンに縋り付く。痛みに震える小さな身体を胸に取り込むと、内側を確かめるように指を動かした。乾いた指は容赦なくラズファードを傷つける。零れそうになるうめき声を必死に飲み込んでラズファードは首を横に振った。
「珍しく熱いではないか、まだ熱でもあるか」
 冷えた肌と対照的に、ラズファードの内側は熱くジャルザーンの指を締め付けた。湿った肉が絡みつく程よい感触と、耳元で聞こえる押し殺した吐息が全てを煽っていく。
「陛下の指が冷たいのです」
 行為中は殆ど喋ることのないラズファードが、熱の籠もった声で熱い唇を首元に押しつけてくる。これも後遺症の一種なのか、それとも東方戦線で余計な事を学んできたか。ジャルザーンは艶めかしいラズファードの姿に生唾を飲み込む。
「気が変わった」
 もう少し苦痛を与えるつもりだったが、そうしたところでラズファードはいつものように目を閉じて我慢をするだけなのは目に見えている。ジャルザーンは指を引き抜くと、ラズファードの腕を掴みベッドに押し倒した。不意を突かれベッドに沈んだラズファードの身体を押さえつけ、覆い被さると膝を割って腿の間に身体を押し込む。
 それが合図だったのか、ラズファードは一瞬息を飲んだ後、手を伸ばして引き出しから器用に香油の入った瓶を取り出した。
 規則的に上下するラズファードの胸に手を押し当て、ジャルザーンは潤んだ漆黒の瞳をのぞき込む。
 皇后ジュブリールから、初めて差し出された時、ラズファードはまだ幼さの残る少年だった。何をされるか、何のために差し出されたか理解していたのだろう、泣き叫ぶこともなくじっと唇を噛みしめていた記憶だけがやけに鮮明だ。
 そこは今も昔も変わらないが。
 ラズファードが手に香油を塗り込め、ジャルザーンをゆっくりと刺激し始めた。絡みつく丁寧な指使いに、は、と短い息をつくと、僅かに刺激が強くなる。
 強い花の香りがする香油。この香りを嗅ぐだけで、ラズファードの瞳は潤み、頬はうす桃色に染まる。まるで餌を目の前にした犬、そうなるよう躾けた。
 ラズファードが香油を垂らした指を、自分で後ろにあてがったのを見て、ジャルザーンはその指を掴んで止めた。様子を伺う、少しだけ怯えの混ざった視線を向けてくるラズファード。
 

 

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