Torment

 

 

 ぐぐ、っと肉を割り、狭い部分を自身でこじ開けていく。
「…っ、……!」
 ラズファードの秀麗な顔が苦痛に歪み、口元を押さえた手が震えていた。細い腰骨を強く掴み、逃げそうになる腰を繋ぎ止め、じわじわと奥へと身を沈めていく。
 口元を覆う手のひらに、刃を突き立てられた痕が残っていた。突き出される刃を手のひらでかばったのか、それとも無様に地面に繋ぎ止められたか、耳に入った話から推測すれば後者の可能性が高い。
 まるで珍しい虫や動物の標本ではないか、そう想像してジャルザーンは口元をゆがめた。
「ベッドに繋いでおくのも悪くはない」
「なんの、話でっ」
 ゆっくりと腰を動かしながらラズファードの手を取り、傷痕に口付けると、その意味を理解したらしく屈辱に頬が染まった。傷口に舌を這わせ、細い指を口に含んで舐めてやると、逃げるように手を引く。
 ジャルザーンの動きに合わせて揺れる身体。
 じわりと滲んだ汗が、額から流れ落ちた。
「いっ…んぅ」
「どうした、腰が動いておるな。自ら私を求めるとは、浅ましき魔物よ」
 ラズファードが否定しようと口を開けると、強く腰を突き出される。否定の言葉は無様な悲鳴に変わった。ジャルザーンが動くたびに震える唇が、飲み込むことの出来なかった声を零した。
 未だかつて、己で動けと命令しない限りさせるがままだったラズファードが、自ら快楽を求め、深く呑み込んで腰を揺らす。反り返ったラズファードの中心は、既に先端を塗らし自身の腹を湿らせていた。
 足をもっと大きく開かせ、ぎりぎりまで抜いてから勢いよく腰を突き出すと、一際高い悲鳴が上がる。溜まった涙が目の端を伝っていくのが見えた。内を探ろうと腰を抱えてやると、堪らないといった様子で歯を食いしばり、首を横に振る姿がジャルザーンを煽る。
 ぎゅうぎゅうと締め付けてくるラズファードの熱い内側。
 シーツを強く握りしめた手が震え、身体が何度も波打った。
 耳に届く粘着質な水音。腰の後ろに走る僅かな痺れ。下腹部に溜まる熱。すべてがラズファードの正常な思考を奪っていく。堪えることの出来なかった声は次々と零れ、溢れた。
「は、…あっ」
 ジャルザーンは一度引き抜き、ラズファードを俯せにさせ背中を強く押した。腰だけを高くあげさせ、もう一度自身を埋める。絡みつく熱い内側が、まるで奥へ奥へと誘うように吸い付き、堪えきれずにジャルザーンはうめき声を漏らした。
 体中を撫でる指は不要な熱を呼び覚ます。それは快楽と呼べるものではなく、仄暗い焔を纏った何か、だ。一度はひいた汗が、また、じわりと体中を湿らせた。
 熱は、余計な感覚をラズファードに与える。
 自分が父王に差し出されることで、妹が逃がされたと知ったのはいつだったか。
 憎み、怨んだ母への思いは行き場を失い、彼女が死んでからも枷のような鎖は断ちきれず残ったままだ。そして、自分に対し、こういう行為を望む父を、何故か憎めないでいる。
 異常なのはお互い様だ。
 身体の内で燻る熱が、ねっとりと絡みつくようなジャルザーンの指先によってじわじわと拡がっていく。
 思考がかき乱され、頭の中が白に染まって行くのを感じた。

 白だ。
 何もない、白。

 それはこの国の未来なのか、それとも自分自身を暗示しているのか。
「ア、あ」
 ジャルザーンは時間を掛けてゆっくり若い肉体を愉しみ、一度だけ浅い所で射精した。じっくりと余韻を堪能した後にそれは引き抜かれ、内に吐き出された精液が溢れ零れる。
 額を、腕を、そして腿の内側を伝っていく汗。
 何も見えなかった白は輪郭を取り戻し、瞳は現実を映す。
 気がつけば覆い被さる重さは感じなくなり、遠くで聞き慣れた父ではない声が聞こえた。このまま目を閉じてしまっても、彼が自分を部屋まで運び、後始末をしてくれるだろう。
 ラズファードは微かに指先に残った力を解放し、ゆっくりと意識を闇に閉ざした。