From hell with Love

 




 もはや発端がなんだったか既にクラインは覚えていなかった。
 ただ苛々していたときに咎められて、反射的に殴ったのだと思う。暴力的な自覚はなかったし、今までそんなふうに他人に手をあげたことなどなかった。だから何故ヴァンに対してだけ、ここまで暴力的になれるのかと、自分自身でも不思議だった。
 これもある種の病気か。
 ただ、やはり男同士であるが故か、ヴァンは小柄とはいえしっかりと鍛えられた熟練の戦士だ。本気で抵抗されればお互い無事では済まない。そういった深層でのヴァンに対する警戒が、暴力という形で屈服させようと働いているのかもしれなかった。彼はこんなにも従順なのに、だ。
「いれるぞ」
 ヴァンの腰を抱え、クラインは自身のペニスを取り出す。軽く扱いて挿入するのに十分な堅さを得ると、ヴァンの尻に擦りつけた。今から挿れるのだ、と覚悟を促して、息を吐きその瞬間に耐えようとするヴァンの頭を押さえつける。
「尻だけあげてろ」
「は、ぁ、うあ」
 指で拡げ、先端をゆっくりと沈み込ませた。太ももに力がこもり、床についた手が震えるのがクラインから見える。それでもぬるついたそこは、エルヴァーンの大きなペニスをしっかりと咥え込み、音を立てて飲み込んでいった。その気持ちよさにクラインの唇から吐息が零れた。
「いいわ、お前今度からずっとこうしておけよ」
 床をまるで握りしめるかのように爪を立てていた手を取り、背中に引っ張ると、ヴァンは自らの身体を肩で支えてもう片方の手も背中に差し出す。いつものように両手首を背中側で戒められると思ったらしい。思わず笑いが零れた。望み通り細い手首をひとまとめにして縛り上げ、尻を掴んで大きく突き上げる。根本まで深く突き刺さったペニスがヴァンの体内を抉った。
 悲鳴を上げたヴァンの身体を数度揺らすと、サーメットの床に頬を擦りつけたまま短い呻き声をあげる。その表情は苦痛だけでなく、明らかに快楽を得ている、そうクラインからは見えた。
「お前は絶対マゾだよな」
 涙と、涎と、血で汚れた顔をサーメットの床に押しつけてヴァンは呻いた。いつも以上にゆっくりと、内側をかき回すかのように腰を動かすと、中から音を立ててオイルがあふれ出し、太ももを伝っては床を汚す。まるで奥までオイルを流し込んだのかと思うほどそこは濡れ、あふれていた。いつにない感触に、クラインは自身が興奮を覚えるのを感じた。このままいつものようにただやるだけでは、勿体ない気がするほどに。
 けれども理性はあっさりと欲望に上塗りされてしまうのだ。狭いヴァンの中を突き入れ、滅茶苦茶ともいえるほどかき回し、その身体を揺さぶった。ヴァンが身を捩り、いつにない喘ぎ声を漏らしたところでクラインは我に返る。
「なんだよ、今日は珍しく気持ちよさそうだな」
「い、…ひ、ぁ」
 ヴァンの股間に手を伸ばせば、かたく勃起したペニス。クラインが握り込むとヴァンは肩を震わせ啜り泣いた。
 クラインの手を汚すのは先端よりあふれ出したもの。軽く扱いてやると、それは音を立てて床に零れた。
「おいおい…なんだ、どうした」
「ん、ぅ、あんたがくれた、薬」
 ───使ったのか。
 クラインは大げさに溜息をついて見せた。
「どれだけ飲んだ」
「少し、半分も、ぁ、飲まなかったの、う」
 緩く揺さぶりながら、ヴァンの吐き出したもので汚れた指を唇にねじ込んだ。
「いっとくけど、その薬気持ちよくなる薬じゃないから」
 あからさまにヴァンが狼狽えたのが分かる。クラインは声を出して笑って見せた。
「それは強制的に勃起を促すだけだ」
 口の中に突っ込んだ指でヴァンの顎を固定し大きく上を向かせた。背中が反って苦しそうな呻き声が零れるも、クラインは手加減する気はないらしい。
「締まるな、いいわ」
 恍惚の声でそう呟くと、クラインは腰の律動を再開した。

 

 

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