From hell with Love

 




「ひ、あ、ぁ、うっ」
 背中で両手首を固定しているベルトが軋んだ音を立てる。耳に届くのは断続的な喘ぎ声と、濡れた内臓をかき回す卑猥な音だけだった。ヴァンの背中が震えて床に何度も白濁の液体を吐き出す。
「いっひゃう、い、ぃ」
「いってえな、噛むなよ」
 思いっきり指を噛まれ、クラインは顔を顰めた。仕返しとばかりにヴァンのペニスに爪を立てるも、もはやその刺激すら快楽と変換されてしまい、ヴァンは短い悲鳴をあげるとクラインの手の中に吐精した。
「クソッ、痛いってんだろ」
 そう毒づいて、ヴァンの口をこじ開けると手を引き抜く。指に残った歯形にじわりと血が滲んだ。
 床に崩れたヴァンの身体を転がして、大きく足を開かせると太ももを抱えて奥を穿つ。喘ぎ声なのか、悲鳴なのか、分からないような声をあげてヴァンは僅かに残った理性で首を横に振った。
 震える唇が、もうやめて、と象って戦慄いた。


 大きく息を吐いてクラインは軽く目を閉じた。
 きつく掴んだ痕が残る腰を手放し、自らをヴァンの内側から引きずり出すと、同時に奥で放った精液が床に零れた。どろりとした精液が太ももを伝っていく様を目で追いながら、痙攣するかのように肩を震わせるヴァンの頬を叩く。
「おい、大丈夫か」
 未だ戒められた両手。その手をクラインは掴むと、ため息をつきつつ手首に食い込んでいたベルトを取り外した。周囲の床に飛び散った体液は、ここで何が行われたかを克明に表していた。
 冷たい床に身体を横たえたまま、ヴァンはゆっくりと固まった身体を伸ばしていく。足首に申し訳程度に引っかかっていた下衣を引き上げて、詰まっていた息を吐き出した。
「も、腰だる」
 そうだろうな、とクラインは呟くと身支度を調える。
「そろそろ行く。俺がつく前に終わりそうだ」
「あんたの欲しいもの、手に入るといいね」
 まだ寝転がったままヴァンがクラインを見上げてそう言った。
「悪意がないのは分かったけど、たまにお前は厭味だよな」
 身構えたヴァンにもう一度ため息をついてみせると、クラインはヴァンに手を差し伸べた。
「起きられるか」
 一瞬躊躇ってから、恐る恐る差し出した手を取るヴァン。
「お前エスケプしたら入り口で終わるまで待ってろよ、どうせその様子じゃあすぐには動けないだろ」
「や、お、俺、今日、も、無理。ごめんなさい」
 じわりと潤んだ黒い瞳。何を想像したのかなど言われなくてもクラインには簡単に予想がついた。
「莫迦言え、俺だって無理だよ」
 鼻を鳴らして泣き出したヴァンを、クラインは無理矢理起こして立たせた。さすがに一人では立てなかったらしく、ヴァンはクラインに体重を預けるようにして立ち上がる。覚束ない足取りで数歩クラインから距離を取ると、ヴァンはクラインを見上げた。
「じゃあル・オンの庭入り口で待ってろ、いい子にしてんだぞ」
「なに、するの」
 まるで死の宣告を待ち受けるかのような気持ちでヴァンはクラインの次の言葉を待つ。次は何を要求されるのか、次は何をされるのか。心臓を握り潰されるような苦しさを覚え、まともにクラインの顔を見ることが出来ず視線が泳ぐ。
「さっさとエスケしろ」
 ヴァンはクラインとサーメットの床へ交互に視線を動かしながら、短距離の空間転移の呪文詠唱を開始する。具現化する魔力の渦がヴァンの髪の毛を揺らし、側のクラインの前髪も揺らした。うっとうしそうにその前髪を何度も指でなでつけて、クラインはヴァンの詠唱が完了するのをただ待つ。
 詠唱が完了すれば、もう目の前はル・オンの庭だ。
 機嫌を損ねるのが怖くてヴァンは口を噤む。クラインが無理だとしても、以前知り合いだという、───けして友人には見えなかったが、軽薄そうな男達の相手をさせられたこともある。結局その時はクラインがさらに機嫌を悪くしてフェラチオのみに終わったが、次はどうなるか分かったものではない。
 詠唱完了の瞬間、クラインは視線をそらしたままヴァンの肩を引き寄せると、そっとその額に唇を落とした。
「一緒に飯喰いに行くんだよ」
 小さく聞き返した言葉は、転移魔法の渦に身体と一緒に飲み込まれ、視界が一面の青空になった頃にはクラインの身体はヴァンから離れていた。もう一度聞き返そうと手を伸ばしたヴァンを軽く制して、クラインはアビタウ神殿に向かって走り出す。
「いいな、そこで待ってろ」
 返事すら聞かずに遠ざかる背中を見つめ、ヴァンはため息をつくと近くの木陰に腰を下ろした。座ってしまうと重たい腰は二度と上がらず、ヴァンは諦めるとそっと目を閉じた。
 
 

 

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