From hell with Love

 




 それら───世界に眠る価値ある宝物を求め始めた時期に開きがあるとはいえ、目の前で震えるウサギのような男は、この世界中の貴重な宝物をいくつも持っている。その中にはクラインが今喉から手が出るほど欲しいものもたくさんあり、それは彼の努力なのだと分かっていてもナチュラルな思考に時折腹が立つ。
 ヘカトンと呼ばれる多腕の巨人を宿した装備、血のように紅いクリムゾンと呼ばれる鱗鎧、そしてファヴニルの心臓を抉ったとされる伝説上の剣、───をなぞった薄青に輝く曲刀リディル。
 引きずるようにしてヴァンをサーメット冷たい床に押し倒し、覆い被さった。
「なぁ、くれよ、ヘカとかクリム」
「あんたが欲しいなら、あげる」
 あげる、から。
 続く言葉はやめて、か。
「お前サイズの特注品に俺が入るはずないし、そもそもあのマッチョ黒魔が許すわけないだろ。考えてモノ言えよ」
 酷い言いがかりなのはクラインも自覚していた。欲しい、と言えばあげる、と言われるのを分かっていて言ったのだ。それでも予想通りの反応に苛立つ。謝ろうと口を開きかけたヴァンの頭を、強くサーメットの床に押しつけると、クラインは謝るなと釘を刺す。
「うぁ、ごめ」
「謝んな、ってんだろ」
 つい手が出る、というのはこういうことを言うのだろう。クラインの手甲が金属の無機質な音を立ててヴァンの顔を弾いた。ふ、と空気の抜けるような呻き声と、ぱたぱたと音立てて床に飛び散った血。ヴァンが慌てた様子で手を鼻にあてがうも、幾度も出血を繰り返した粘膜は弱りきっており、少しの衝撃で傷口が開く。
「あぁ、ノーブルに血が」
 白い袖についた紅い斑点を掴んでクラインが嘆いた。
「汚すなよ、高級品」
 血で汚れたヴァンの手を掴んで、クラインは頭上へと押しつける。
「そこの壁に手ついて、尻こっち向けろ」
 言われるがままに、ヴァンは身体を引きずるようにして壁まで移動する。冷たい床に点々と血のついた指の痕が残った。壁まで到着すると、血で滑った指が壁に朱いラインを引く。無機質で飾り気のないサーメットの壁が一瞬血で鮮やかに彩られ、そしてそれはすぐにどす黒く変色していく。それらはきっと1時間もたたずに神殿内部を掃除しているクリーナーによって跡形もなく消されるであろう暴力の痕だ。
 半ば強引に下衣を引きずり下ろし、剥き出しの尻たぶを掴んで割り開く。
「おい、濡れてんだが」
 指でその場所をそっと触れば、ぬらついた液体がクラインの指先に絡んだ。最後にここをいいように弄んだのはいつだっただろうか。大して遠くない日だったような気がして、クラインはほぐれたその場所に親指を潜らせた。外側だけでなく、内側もしっとりと濡れたそれがオイルであるのは間違えようもなく、ぐいぐいと奥へと差し入れれば空気を含んだ音を立ててオイルが指を伝った。
 それがここに来る前に、別の男と身体を交えてきたわけではないのは見れば分かった。これはヴァンが自らここに来る前にオイルを塗りつけてきたのだ。
「なにやってんだ」
 確かにクライン自身、こういう意図があってオイルとヴァンを要求した。けれども、オイルは移動で使用するためであり、塗り込めてくるという発想はなかった。溜息混じりにそういうと、ヴァンは顔を背けて口を噤む。
 どうせヴァンのことだ、クラインがオイルを使ってくれないかもしれないとでも思ったのだろう。さすがに最近はクラインなりに気を遣っていたつもりではあったが、それは欠片も伝わっていないらしい。中の具合を確かめるように親指を押し込むと、呻いたヴァンが顔を押さえた。指の隙間から零れる薄赤い血が床に音をたてて零れる。
「ひどい顔だな」
 自分でやっておいてなんだが、とクラインは溜息をついた。


 

 

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