Corsage

 


 翌日、エラッタからテルが来て、キャベツを沢山持ってウガレピに行こうと誘われた。
 エラッタはどうやら本気らしい。
 エラッタならきっとコサージュが似合う、だって細身の上半身にチュニックがとても似合うから。胸が貧相だとか、そんなことは一言もいってない。うん。
 あーもう、どうしてあたしはこんなヒクツなんだろう。
とりあえず暴れるか、と、合流したら、エラッタはサポ白だった。

「ほら、イレースとかポイゾナとかあると楽でしょ」

 サポ白なの、って聞いたらエラッタは笑って言った。
 あたしは何も考えないサポ戦で来てた。こういう気遣いすら出来ない自分に心底嫌気がさした。

「ファニーはガンガン攻撃してね、わたしが回復するから」

 頷いてみたはいいけど、あたしって本当に脳筋だったんだって実感した。

「どうやってウガレピまで行く?ジュノから飛空艇でカザムから歩こうか」
「えへへ、実は意外な人にテレポを頼んでみました」

 エラッタが口元に指を当てて微笑んだ。

「よう、準備は出来たか?」

 そう、声を掛けてきたのはヴァンだった。

「ヴァン」
「ありがとうー、とても助かりますー」

 ヴァンのいでたちはいつもの戦士のそれじゃなくて。
 薄青に金色の縁取りをした美しいチュニック。
 高位の白魔だけに許される、銀色の糸を編みこんだ、ノーブルチュニックだ。
 合わされた同じ薄青い刺繍が施されたズボンが、小柄なヴァンを包み込んで、それはもう悔しいくらいに可愛い。

「白、あげてたんだ」
「アルから聞いてビックリしました」
「もう、お喋り糞タルー」

 内緒にしていたらしく、恥ずかしいのか視線をそらしたヴァンは、行くぞ、と高位テレポを詠唱し始めた。
 光に包まれて、次に目を開けたらそこはヨアトル大森林。

「ありがとー」
「ヴァンさんありがとう」
「気をつけて行ってこいよ」

 エラッタとふたりで手を振って、デジョンで帰るヴァンを見送る。
 そして、ふと思い出して、ヴァンはポートンを目指して白あげたんだろうな、と思い至った。
 あたしと会った時は既に戦士だったけど、きっと多分、あの子は最初白だったんだろうと。

「エラッタ、頑張って繭取ろうね」
「うんっ」




 ウガレピには人がいなくて、あたしたちはすぐにキャベツを置いてハベトロットが来るのを待つことができた。
 やっぱりもう人気がないんだろう、大分時期逃してるしね。

「レイアさんも誘ったんですけど、「うちは貢いでもらうニャ」って言われました」

 声を潜めて、近くに隠れたエラッタがそう言った。

「レイアらしいわ」

3度の飯より風呂が好き。そう言い張るレイアは、ちょっと一風変わったミスラだ。
いつ白鳥の王子様が目の前に現れてもいいように常に綺麗にしておくがモットーだけど、一度も彼女の前に王子様が現れたことはない。
それでもその意欲と努力は賞賛出来る。
今まで貢いで貰ったなんて事は一度も聞いたことがないけど、そんなこと言わないよね普通。

「そういえば、ヴァンさんのあのノーブルチュニック」
「ん?」
「アニスさんお手製のプレゼントらしいです」
「マジで」
「アル情報だから確かです」

 僅かに鼻息を荒くしたエラッタが拳を握りしめて力説する。
 マジかー、ヴァンは愛されてるな。

ああ、そう、アニスってのが、ヴァンの恋人。
ちょっと噂の絶えない男だけど、信頼は出来る。あのナックの友人だし。
って、誰に説明しているんだあたしは。

「アルが恋人に洋服を贈るときは、それを脱がしたいからだって力説してました」
「ん、てことは、ヴァンはノーブル脱がされ済みってことかっ」
「わたしあんまりアニスさん知らないんですけど、なんかあんまりお二人が恋人同士って想像できないんですよねー」
「同性だから?」

 エラッタが少しだけ口を尖らせて頷く。
 ハベトロットが来ない間暇をつぶせる話題があるのはいいことだ。
 ネタにされてるヴァンには悪いけど。

「あんたさ、アルを好きになったのは男だから?」
「あー、うーん。…違うと思います」
「男とか、女だとか関係ないんだと、あたしは思った」
「そうですね、ごめんなさい」

みんなそう思ってるんだ。普通じゃないから。
でもさ、何が普通なんだろう。
普通って言葉で、自分の価値観を相手に押しつけているだけじゃんじゃないかな。
って、あたしも同じなんだけど。

「こんな話で申し訳ないんですけど、なんていうか、えっと。早い話がですね、想像できないんですよね」
「いや、うん。想像しなくていいと思うよ」
「そ、そうですか。なんかドキドキしてきた」
「でもきっとあたしたちと何も変わらないんじゃないかなーとは思うけど、ってなんでよ」

 少しだけ染まった頬をかかえてエラッタがゴクリと生唾を飲み込んだ。

「やや、なんか生々しいんですけど、やっぱり、その、彼らも、す、す、す」
「す?」




「するんですよね…?」



 消え入りそうな声。
 エラッタ、顔真っ赤だよ。

「してるんじゃないかなあ」

相手は30後半でそれなりに枯渇しているかもしれないけど、ヴァンは23歳ですよ。
あんまり長続きした子はいなかったけど、ヴァンの側に女の子が居なかった事の方が少ない。
というか、どっちが、ってやめよう。

「そ、そうですよね。ぬ、ぬ、ぬ、脱がすだけですまないですよね」
「そりゃ、あんただって脱がされただけでその後ないなんて事ないでしょ」
「ええっ、いや、その、まあ、そうなんですけど」

 あー恥ずかしい、と言ってエラッタは両手で顔を覆った。
 耳までほんのりと赤く染まった彼女に思わず笑いがこみ上げた。

「似合ってて可愛かったなぁ」
「ですね、脱がしてみたくなるのも分かります」
「分かるのか」
「だってぇーちっさくてかわ」

 そこまで言って、あたしとエラッタはふたり同時にため息をついた。
あたしもエラッタも明らかにヴァンより背が高いのはここだけの秘密だ。


「………ハベ来ないですね」
「…来ないね」

 

 

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