Corsage

 


 それからあたしたちは馬鹿話を続けてハベトロットを待った。
 でもハベトロットは来ない。
 あたしたち、なんでこんなに可愛いものから避けられてるんだろう、って思ったら泣けてきた。

「あ、あれ?人きたかな?」

 エラッタが不意に顔を上げた。
 あたしも釣られて振り返ると、なにやらアライアンスっぽい人数がこっちに移動してきていた。

「ありゃ、シィルさん」

 アライアンスの中に、シィルさんがいるのが見えた。
 白い羽のついた帽子に、赤い刺繍の入った美しいタバード。
 赤魔道士。

 シィルさんもこちらに気付くと、ほぼあたしたちは同時にお互い手を振った。

「あら、知り合い?丁度いいわ、シィル。ここはあたしたちが使うからどっかいけって言って頂戴」

 突然の発言に、エラッタが驚いて口をパクパクとさせていた。
 あたしも驚かなかったわけじゃないけど、なにこのアホは、って先に思った。
 だって、どう考えてもあたしたちに聞こえるように言ったでしょ、そのタル。

「ダメですよ、ミリィさん」
「あんたの意見なんか聞いてないのよ、あたしはハベトロットをやりに来たの!」

 なんか突然のことに気おされてしまったけど、少し心配になってそっとエラッタに耳打ちした。

「ハベってさ、こんなに人数必要だったっけ」

 エラッタがふるふると首を横に振って答えた。
 そうよね、だってあたしたち今ナとモで来てるわけだし。

「てか、男の方ばかりなんですけど」

 言われて見れば、シィルさんとそのアホタル以外男だ。

「あなたたち、会話が聞こえててもまだ帰らないわけ?」

 なんかあまりにもありえない状況にあたしは笑いが込み上げた。
 なに、さっきの言葉は立ち退き要求だったわけか。

「言い方ってものがあるんじゃないかな?」

 つい言い返したら後ろでエラッタがおろおろしてるのが分かった。
 基本的にエラッタはこの手のいざこざが苦手だ。

「すみません」
「どうしてシィルさんが謝るのよ」

 あ、なんかマズイ。
 凄く腹が立ってきた。

「ここは元々あたしたちが予約してたんですー」

 アホかこのタル。

思わず口に出して言うところだったわ。

 突然の発言にシィルさんも滅多に見ないような愕然とした表情でそのタルを見下ろしていた。
 当然あたしもだ。
 エラッタはあのタルが発言するたびに物凄いリアクションをしていた。
 理解はする。

「大体女ふたりでハベ狩りって寂しくないの?自分はドレス貢いで貰えません、って言ってるようなものじゃない。あー恥ずかしい恥ずかしい」

 当たってるけど言われるとムカツクんです。
言わせておけばこのタル、と思ってたら、シィルさんがしゃがみこんでその小さな手でタルの頬を叩いた。
 ペチ、という可愛い音で、シィルさんらしいとは思ったけども。
 あたしなら、きっと、タル吹っ飛んでるね。

「私の大切なお友達にそんな暴言はかないで」

 おっとりとした口調なのに、しっかり、はっきりとシィルさんはそう言った。
 タルは叩かれた事に驚いたのか、シィルさんを見上げて肩を震わせる。
 ざまあみろ、とか思ってたら、今度は周りの男が騒ぎ出した。

「お前、ミリィちゃんに何するんだ」
「赤魔だからと思ってついてくるの許したけど何様?」
「ミリィちゃんに手をあげたな」

 エラッタがこっそりと、「これまさか従者とかいうオチですかねえ」と後ろで囁く。
 かなぁ、てかコレどうなってるんだ。さっぱり状況が分からなくなってきた。

「予約とかおかしいでしょう」

 そうシィルさんは男どもを見向きもせずタルにそう言った後、立ち上がってあたしたちに頭を下げた。

「すみません、気分を害されたと思います。次まで待ちますね」

 うん、やっぱり常識あるよねこの子。
 おっとりしててちょっと天然で、でもちゃんと怒るときに怒れる子なんだと、なんだか嬉しくなった。
 あたしは、シオンをこの子に取られた気がして、一方的に嫌な子だと思い込んでいたのかもしれない。

 やっぱりあたしはアホだ。

「ちょっと、なんであたしをぶって挙句に勝手に話を進めてるのよ」

 そこでヒステリーを起こすタルもお約束といえばお約束。
 なんだか無性に楽しくなってきた。笑うしかない状況だからかもしれない。

「あ、アルからテルがきた」

 エラッタが目の前の事から逃避するようにそう言った。
 多分、今あった事をエラッタの方からアルに報告したに違いない。
 何か問題が起きたときに、あたしたちだけじゃ確かに不安だから彼女の取った策は正しい。

「なんなのよシィル、待つってどういう事、あたしだって欲しかったのに!!」
「競売なんか中古だからいらないって言ったから材料を取りに来たんですよね」
「人がいるなんて知らないわよ!」

 なんか従者の擁護と、わけの分からないタルの戯言でさっぱり分からない。
 シィルさんは困った顔ひとつせずに従者の擁護を全てスルーしていた。
 実はこの子天然じゃなくて物凄い猛者なのかもしれない。

「アルから、ヴァンさんが迎えに行ったから、面倒ごとに巻き込まれる前にテレポしなさいって」
「それが得策ぽいねー」
「ごめんなさい、私がサポテレポ出来るレベルだったらよかったんですけど」
「いいのよ、何を言ってるの。ハベはまたゆっくり一緒に来ましょ」

 タルはまだギャーギャーと喚いていた。
 あたしたちはアホらしくなって傍観してた。

 そうしたらすぐにヴァンからテルが来て、今ウガレピ入った、との事。
 アルもヴァンも仕事早いな。

 ヴァンはあたしたちがなんでウガレピに来てるか知ってるのかな。
 まぁ、恥ずかしさも半分こでいっか。

 

 

Next