Scourge

 




  古い物語に、「アーサー王伝説」というものがある。


 子供の頃大好きだった本で、何度となく読んだ。

 架空の国、おとぎ話のような剣の世界。
 国を統一したキャメロットの伝説の王、アーサーと12人の円卓の騎士。大魔導師マーリンによって導かれ、アーサーが台座に突き刺さる聖剣エクスカリバーを手にし、王になるまでの壮大な物語だ。
 その物語をもじったNMがジャグナー森林にいる。
 King Arthroと呼ばれる世界でも珍しい赤い蟹。
 語源は間違いなくアーサー王伝説。お供に12匹の蟹を引き連れている所から、誰かがアーサー王をもじってそう呼び始めたのだ。


 龍王ランペールの墓を越えた先にある、ジャグナー森林の隠された湖。
 そこに、『王』は姿を現す。

 聖剣エクスカリバーを、アーサーがキャメロットを去る前に返した湖。ここが本当にそうなのかは分からないが、茂った林が、葉が、湖に立ち籠める霧で濡れそぼり、日の光も届かない密林は、伝説のように神秘的で静かだ。
 ヴァンは辺りを見渡す。

 ────其の王の場所にて、聖剣を待て。

 クラインがいるはずだった。
 <<聖剣>>とともに。


 湖の側まで近づいて、風に揺れる水面をじっと見つめる。
 驚くほど静かだった。

 ふと、背後に気配を感じてヴァンは振り返った。
「お、マジでいた」
「おお、ほんとだ」
 怪訝な表情を向けると、蔦をかき分けて湖の畔に姿を現す二人の男達。彼の手には、見覚えのある安っぽい皮の封筒。
「君でいいのかな、お届け先は」
 しっかりと蝋で封がされている封筒を、男は掲げて見せた。
 あの中身は知ってる。
「なんで」
 思わず手を伸ばすと、男はヴァンの指先が触れる前に封筒を引いた。
「おっと」
 もう一人の男が、伸ばしたヴァンの腕をとる。
「待ってたヤツじゃないって顔してるな、話聞いてない?」
「代理できたんだけど、コレと引き替えに、いいこと、してくれるんだよね」
 男達の言葉の半分もヴァンの耳には届かない。
 理解できたのは、クラインは来ない事、彼らがあの画像を持っていること、そして彼らがただでその封筒を渡してくれる気がないことだ。
 もう、逃げることは出来ない。

 後悔は、後から大きな代償と共にやってくる。



 

 

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