Scourge

 




 HNMLS、Albionのメンバはヴァンに何が起きたのか見ていなくても大体把握している。
 だから、例えクラインが画像をばらまいたとしても、みんなきっと見なかった事にしてくれるだろう。問題はメインにし ているLSの方で、ヴァンはこっちには一切HNMLSの問題を持ってきたことはない。HNMLS絡みでこっちのLSに迷惑が掛かってしまうのは避けたかった。

 メインで籍を置いているLSは、冒険者という職業が公に認可された頃に仲良くなったメンバで設立した。こっちも、その発足メンバから一人も欠けることなく、また、一人も増えることなく今まで続いている一般LSだ。

 LSリーダーであるガルカの白魔道士ポートンは、ヴァンが小さな頃から面倒を見てくれた古き友人だ。バストゥークにしては珍しいヒュームとガルカという種族を越えたつきあいがある。
 彼を追いかけるように冒険者になりたい、と言い出したヴァンに、反対する両親を代わりに説得してくれた経緯があり、冒険者になってからもずっとポートンはヴァンの面倒を見てきた。
 少なくとも、今の状況を彼は許さないだろうし、画像が手元に渡るようなことがあれば冒険者を続けることに反対するかもしれない。

 そして、もし、画像が両親の手に渡るような事があったら。

 深く考えず、自分のことだけを考えて出した答えは、後から後悔を引き連れてくる。


「ヴァン、絡まれるよ」
 巨大なサソリの前でぼうっとしていたヴァンに声を掛けて、スニークをかけてくれるのは吟遊詩人のルルゥ。
 アットワ地溝の奥、千骸谷への道のり。深い洞窟を西側に抜けると、そこからは手前と違って凶暴なモンスターが徘徊する危険地帯だ。地中に潜むアントリオンは獲物が真上を通るのを待ちかまえ、夜間になれば土から死者が甦る。
「あ、ごめん」
 立ち止まったヴァンの横をLSメンバが笑いながら駆け抜けていく。スニークをかけたルルゥも彼らを追いかけるように走り出した。
「俺から離れるなよなー」
 頷くとルルゥが蒼い目をヴァンに向けて屈託無く笑う。
 ここには人間にとって毒となる花粉をまき散らす植物が至るところに群生しているのだ。一度吸い込んでしまうと毒は徐々に体力を奪い、身体を蝕む。そんな弱っていく死の香りを、甦った死者達は敏感に嗅ぎつける。
 ヴァンもルルゥの背中を追うように走り出す。
 目の前でルルゥの茶色の髪が跳ねるようにふわり、ふわりと揺れた。
「ヴァン?」
 ゆっくりと足を止めたヴァンを振り返るルルゥ。


「ごめんルルゥ、俺、行かなきゃ」


 ヴァンの様子から何かを感じ取ったルルゥの表情が、怪訝なものから焦りに変わって行く。
「ダメだ、ヴァン行くな」
『どうした』
 リンクパールから訝しんだメンバの声が届く。
 その声を聞きながら、ヴァンは耳たぶからリンクパールを外した。
「ヴァン、やだ」
 ルルゥは、多分カラナックからある程度話を聞いている。
 きっとヴァンに起きた事の半分は理解しているのだろう。
「預かってて、ちゃんと後で取りに来るから」
「後っていつだよ、バカ、このやろう、俺は受け取らないぞ」
 差し出されたリンクパール、ルルゥは手を後ろにまわしてヴァンを睨み付けた。
「必ず行くから。お願い」
 ヴァンは近寄ってルルゥの後ろにまわされた腕をとると、その手のひらに綺麗に光るリンクパールを乗せた。そしてゆっくりと指ごと手を握りしめて、リンクパールを握らせる。
「ヴァン」
 じゃあ、と短く言って、ヴァンはルルゥに微笑んだ。



 ヴァンに届いたテルはクラインからの短いメッセージ。



 ────其の王の場所にて、聖剣と待つ。



 

 

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