Scourge

 




「う、ひ、もうやめ」

 水っぽい液体が、僅かにヴァンの性器から吐き出された。
 後ろから腰を掴まれて、強制的に射精を促される。もう何度目かも分からない。
「なあ、テル来てるぜ」
 テルの着信を告げる淡い光が、クラインの目にとまった。
「出ろよ」
 リンクパールを指でなぞって、クラインはヴァンを強引に揺さぶる。悲鳴を上げてヴァンが唇を噛みしめた。何度も噛みしめた唇はボロボロに傷つき、淡い血が滲んでいる。
「何かの招集か?」
「ちが」
「なあ、次何が来る」
 思いついたような調子でクラインの声が弾んだ。もう殆ど勃起しない性器を強く握られてヴァンは肩を震わせる。
「それは招集のテルだろう、今どこに集まってる」
 耳たぶのパールに耳を寄せるクライン。
「ついでに次ファブが帰ってくるのはいつだ、教えろよ」
「い、や」
「嫌じゃないだろ、俺が画像もってるの忘れてないか」
 耳元で囁いてやると、ぎりっと奥歯を噛みしめる音が聞こえた。クラインはシーツを握りしめるヴァンの腕を背中にねじ上げ、もう一度囁く。
「何の招集だ」
「…ベヒ」
「いい子だ。ファブの時期は」
「やっ、も、たすけっ」
 助けを乞う言葉はクラインの乱暴な動きにかき消された。頭を押さえつけられ、腰だけを高く上げた状態で腹の中をかき回される。鈍い痺れがヴァンの視界を濁らせた。
「ファブの時期、いつ」
「つ、ぎの満月っ」
 もう何を喋ったか、分からない。
 何を聞かれているのかも分からなかった。とにかく、知っていることを全て喋った。
 ベッドの軋む音が遠く霞み、背中に回された腕の感覚がなくなってきた頃、まるで何かの糸が切れるようにプツリ、と全ての音がなくなる。ゆっくりとまるで滲むように白から黒へと変わる視界の中、近くでアニスの呼ぶ声が聞こえた気がした。





「ちょっとアニス、AQの連中が来たんだけど」
 ミスラ狩人が耳をピンと立ててまくし立てた。ミスラの指さす方向には、最近ノートリアスモンスターの現れる地点でよく見かける顔ぶれが揃っていた。AQ、と略される彼らは新興のHNMLSの中では比較的活発で、また年齢層が若い。龍のねぐらで取り合った挙げ句に揉めたのも彼らAQだ。
「なんでだ、どこで情報洩れた」
 髭を撫でつけながら白魔が舌打ちした。
 今期のベヒーモスが自らの縄張りに姿を現すのは初めてになる。偶然、LSの一人がメインのLSで活動中、手伝いで縄張りに来る事があり、ベヒーモスの痕跡を見つけた。そのお陰で正確なところまでは分からないが、少なくとも次に姿を見せるであろう時期をある程度特定出来たのだ。
「集まってるのがバレた?」
「それにしては集まりも行動も早い、知っていたとしか思えない」
 昨今冒険者協会によっていくつかの新しい区域が冒険者に開放され、それまで多くの冒険者が集まっていた場所は世代交代を迎えた。ベヒーモスの縄張りもそんな場所の一つだ。以前は訪れる冒険者の間で、咆哮を聞いた、だの姿を見た、だのと噂されていたものも、今ではそんな話も珍しい。
「ヴァンに連絡がつかない、な?」
「リンクリストには居る」
「…リンクシェルでの会話を禁止しろ」
 アニスの指示に白魔が端末を操作しながら顔を顰めた。
「ヴァンはジュノ。連絡取れないのはあいつだけ」
「ヴァンが喋った?この間の詫びに?」
 信じられない、と吐き捨てるように言うのは黒魔。
「まだヴァンが喋ったと確定したわけじゃないだろ」
「ちょっと」
 ミスラがアニスの腕を叩く。振り向いたアニスの視界に一人のエルヴァーン。
 緩慢な動作でゆっくりと手を挙げるクライン。手のひらには何かが握られているのが分かった。誰一人言葉もなく、クラインがアニスの側まで来るのを見守る。

「壊れたから、返すよ」

 何が、とは聞けなかった。
 差し出したアニスの手のひらの上で、クラインが握りしめていた指を開く。

 こぼれ落ちるように、砕けたリンクパールがアニスの手のひらの上を転がって、地に落ちた。


 

 

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