Scourge

 





 叫び声。

 縄張りにベヒーモスのではない咆哮が響き渡った。
 取り乱し、殴りかかろうとするアニスを白魔が必死で止め、その様子をクラインは少しだけおかしそうに見守る。
「アニス、落ち着け、落ち着くんだ」
 じゃあ、渡したよ、と言うとクラインは背中を向ける。その背中に銃を構えかけたミスラの腕をメンバの一人が止めた。
「やめろネコ」
 無言で銃を下ろし、ミスラはクラインの背中を睨み付ける。その場に集まった全員が、じっと遠ざかるクラインの背中を見つめる中、振り返ったそのエルヴァーンは不敵な笑みを浮かべ付け加えた。
「ああ、そう。上層1区F-5、って言えばわかるか」
 レンタルハウスの住所を示すコードだと全員が理解した。

 そしてそこに砕けたリンクパールの持ち主が居ることも。


 クラインが戻った後、誰ともなしにため息が零れた。
「俺はジュノ戻るが。アニスとにかく後でイイから説明しろ」
「ボクも行く」
 頷いて、カジェルに持ち替えていくメンバに黒魔達がデジョンの魔法を掛けていく。遠くで稲妻の光が一瞬空を照らし、聞き慣れたベヒーモスの咆哮が風に乗って耳に届いた。
「上層には俺が行く、誰か一人一緒に来てくれ。ネコはアニスと一緒にいろ。他も状況分かるまで待機」
 呆然としたアニスに変わって髭白のクェスが指示を出していく。ミスラは少しだけ眉をひそめたが、大人しく指示に従ってアニスの側に立った。港区のガイドストーンのそばでアニスを座らせると、赤魔が先ほど拾ったリンクパールを握らせる。
「これ、ヴァンのだろ」
 自分で割ったわけではない、中からひびが入り砕けたパール。
 アニスは頭を抱えたまま、パールを握りしめた。



『ひでぇ』
 そう、リンクパールからクェスの声が聞こえ、みな身体を強張らせた。
 一緒について行ったナイトの震える声が不安をさらに煽る。
「やめてよね、声だけ聞いてるボクらの身にもなってくれ」
 状況が見えないネコが尻尾を立てて抗議した。
『すまん思わず。悪いが、もう一人誰か来てくれ、出来ればネコ以外』
「なにそれ、こんな時だけ都合良く雌扱いするの?」
『違う、が、お前はダメだ』
「落ち着けネコ、みんな不安なんだ。クェス、状況を頼む、誰が行けばいいか分からない」
 赤魔がクェスに状況説明を求め、隣のネコを抱き寄せてなだめた。
『…いや、とにかくヴァンを移動させたい。男手を』
 言いかけて途中で言葉を止めるのは、みなの前で言いにくいのだろう。やっぱりネコに行かせる訳にはいかない、と赤魔が腰を上げるのをアニスが止めた。
「俺が行く」
『…ああ、その方がいい。悪いがそうしてくれ』
「クェス、生きてんだよね?」
 聞きたくても聞けなかった言葉を、ネコが声を絞り出すように叫んだ。
「ヴァン、生きてるんだよね?」
『ああ』
 少しの間をあけて、クェスが低くそう答えた。
 その言葉は消して楽観的ではない。


 その言葉の様子に、ネコは悔しそうに首を横に振った。




 

 

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