Scourge

 


 あっさりと抱き込まれ、部屋の方に身体を促されながら、ドアが開かれ身体を滑り込ませるようににして中に押し込まれた。背後でドアの閉まる音、そしてカギが掛けられる独特の金属音が響く。灯りのついていない薄暗い部屋では足下も頼りなく、躓いてよろめくとそのまま床に押しつけられた。

「ねえ、何で俺なの」

 震える唇。
 目の奥が熱くなって涙が溢れそうになる。押しのけようと上に被さるようにしてのし掛かってくるクラインの肩を押したが、下というのは場所が悪い。びくともしないクラインの体を手のひらで数度叩いた。
「お前は甘い蜜、俺は蝶」
「ばかいって…」
 クラインの長い指がヴァンの唇をなぞった。そしてそのまま口付けると、まるで味を確かめるかのように舌を絡める。口づけを受けながら、手首を床に繋ぎ止められて、無意識のうちに身体が震えた。
 やめてと言いたいのにその言葉が出てこない。ヴァンの白い手首を掴んだクラインは、その様子に少しだけ面白そうに笑った。僅かに残る手首の痕は生々しい。
「俺に、…男にするより女の子の方がいいじゃん、柔らかくていい匂いがして」
 声が震えていた。
「ヒュームなんて、男も女も小さくて華奢で柔らかい」
 馬鹿にされてる気がして、抗議しようと口を開けると、その隙を突いて指が差し込まれた。唇をこじ開け、咥内をゆっくりとなぞっていくクラインの長い指。その感触に目を閉じて思わず腕を掴んだ。
「舌、出して。痛いの嫌だろ」
「ん、ン」
 指で舌を絡められ、苦しい。それだけじゃない、手足の指先がすうっと冷えていくのが分かる。唇がじんと痺れ、やけに息苦しい。心臓の鼓動が痛いくらいに響いて、目眩を覚える。
 怖かった。
 この指が、また身体を開いていくと思うと、それだけで今すぐに叫び出しそうな程に。



 クラインはヴァンをベッドに促すと、指で唇をこじ開けて口付けた。
「怖かったらしがみついてもいいぞ」
 クラインは冗談のつもりで言ったが、ヴァンはそのまま両腕をクラインの首に回して肩口に額を押しつけた。うなじに触れる指先が冷たく、小刻みに震えているのがそのまま伝わってくる。
 強張って堅くなった背中に手を回し、ゆっくりとベッドに横たえると、下衣をずらす。先日から出しっぱなしにしてあったオイルを手に取り、念入りに指に絡めると、ヴァンの尻を割ってゆっくりと差しいれた。鼻に掛かったような吐息がヴァンから漏れ、クラインの肩を掴む指が震えた。
 指先を潜らせた所で、締め付けてくる肉をかきわけるように一気に根本まで押し込んでみる。身体が大きく跳ねて、しがみつく腕に力が込められた。入り口を広げるように指を増やすと、ぎり、と歯を食いしばる音が聞こえた。
「あんま力いれんな」
 ダメ元でそう声を掛けてみたが、ヴァンは詰まったような息を繰り返すだけで返事もしない。
 しばらく弄ぶと慣れてきたからか、ヴァンはクラインの指を根本まで受け入れた。内側を探るように擦ってやると面白いように背中が跳ねる。少しずつ存在を主張し始めたヴァンの性器に気付いて、握ってやると、初めてヴァンが真っ赤になった顔をクラインに向けた。
「後ろ弄られて勃起してる」
 耳元で囁くように言ってやると、ヴァンは顔を背けた。
 反応の良いところを重点的に責め立てると、性器を握った手のひらが濡れてくる。僅かに上下させると、指に絡んで卑猥な音を立てた。満足そうに笑ったクラインが後ろから指を引き抜くと、ヴァンは身体全体をひくつかせ小さなうめき声を漏らした。
 脚を持ち上げて、膝が肩に付きそうになるほど身体を折り曲げさせると、苦しそうにヴァンが首を横に振る。柔らかくほぐれた後孔に先端を潜り込ませると、小さく呻いた。
「だからあんま力いれんなって」
 そう言ってヴァンの顔を見下ろすと、固く閉じられた目から涙がこぼれた。浮いた背中をさすってやると少しずつ飲み込んでいく。涙は途切れることなくぼろぼろとと零れ、短い吐息と、力を逃がすために出される声が静かな部屋に響いた。

 時間を掛けて全部飲み込んだヴァンが、苦しそうな声を上げる。


 

 

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