Scourge

 


 きっかけは些細なことだった。

 数ヶ月ぶりに、ねぐらへ姿を現した真龍を巡って、古参のLSと新参のLSが争った。
 最古参、と言われるほど長く続いているうちのHNMLSは、まだいたのか、と言われるほど有名で。さすがに毎日粘る程の積極的な活動はしていないまでも、世界龍が姿を現した時など細々と活動を続けている。殆どの人間が別に所属する一般のLSを持ち、普段は別々の生活をしている。
 何故続けているのか、と言われると、大半がこう答える。

 強大な敵を、仲間と団結して倒すのがいいんだ、と。

 長く続いているから、発足に関わったメンバーの殆どが冒険者としての盛りを過ぎている現状。もしやめてしまえば、もう二度とこんな機会はない。そんな危うい繋がりを求めている部分も少なからずあるのだろう。だけどそれが良くも悪くもうちであり、大きな問題がおきない要因の一つではないかと思う。
 そんなうちと、最近立ち上げられたばかりの新参のLSが龍のねぐらでかち合った。
 大体においてLS同士の抗争は、毎度毎度ありきたりな展開を見せ、口汚く罵りあい終結する。そんなものはもう見慣れた光景だ。
 時々LSリーダー同士が話し合い、それで終わることもあるけれど、1週間以上ねぐらで寝泊まりした人間同士の昂ぶった精神は、そう簡単には収まらない。たまに殴り合いの喧嘩になることもある。それもまた、よくある光景。
 今回は後者だった。

 話し合いの後、苦笑いしながらLSリーダーのアニスはぽつりと「若いなあ」と言った。




 大規模な戦闘の後は、全員で勝っても負けても祝勝会をするのがうちの習わしだった。
 大物と戦うような緊張が長く続くと、戦闘が終わってもその高揚感はしばらく続く。疲れているのに、眠れない。そういうときだから、着の身着のまま、汗臭く泥臭いまま、みんなで飲んで、食べて、労う。毎回そんな冒険者を受け入れてくれるジュノ下層詩人酒場はある意味凄い。
「おまえがディアいれたんだっけ?」
 ビアマグを口元に寄せて赤魔が白魔に言った。
「そうだけど、スパフレ喰らう方がわるいんじゃね?」
 しれっと言ってのける髭面の白魔はビール片手に赤魔から視線をそらした。
 会話の内容は主に、今日戦った相手のものになるのは当然の流れだ。
「一人、まだ生きてたよな」
「その前のハリケーンで一回倒れてる。衰弱してたし死ぬのは時間の問題だったと思うが」
「どうみたって状況的に立て直せないのは分かってただろうけど、最後までやらせて欲しかった、と言われると耳が痛いな」
「だってよ、ヴァン。挑発ぶちかました張本人」
「手が滑りました?」
 テーブルに頬杖をついたままヴァンは唇を尖らせた。
 隠した頬は僅かに腫れている。
「良く言うよ、虎視眈々と狙ってた癖に」
「同時にネコの縫い入ってたの俺見た」
「バ、バレてる!」
「みんな似たような事考えていたんだよ」
 大きなテーブルとは言えない場所に所狭しと料理を並べて、14人で囲んだ小さな祝勝会。いつもと違うのは後味。
 確かに真龍の怒りが収まらないうちに、横から手を出したの事実だ。だけど、沢山の人がねぐらに伏して呻いている中、一人残された衰弱で動けもしなかった白魔に迫る巨大な龍を、彼が再び地に伏せるまで見て見ぬふりすることなど出来なかった。
 凄く、都合のいい言い訳ではある。
 ヴァン自身も重々承知していた。だから、終わった後、向こうの暗黒騎士が殴り掛かって来たとき、避けもせずそれを顔面で受け止めたのだ。
「ヴァン、腫れてるところ見せな」
 身を引くことで遠回しにいらない、と伝えたつもりだったが、白魔はヴァンの腕を掴んで無理矢理自分の方へ向けた。
「お前が悪いんじゃないから」
 白魔はそう言って、貼れた頬に手を当ててケアルをくれた。
 

 

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