Chemical Reaction

 



 少しだけ目を閉じたら、気がつけば二時間ほどたっていた。
 これといってすることも約束もなかったけれど、なんとなく外したままにしておくのも気が引けて、シャワーを浴びて外していたリンクパールを付ける。途端飛び込んでくるグラールの怒鳴り声。
『だから、ケイの反応がないんだ』
『着拒否されてんじゃ』
 ケイさんの反応がないことに怒っているグラールと、それを宥めるどころか逆撫でするリンクシェルメンバの会話。流れが読めずに挨拶も出来ないままグラールたちの会話をただ聞いた。
 ケイさんが反応ないのは寝ているのかも、とは思ったが口に出すのはやめた。なんとなく後ろめたさとともに、グラールに教えてやる気もなかったからだ。だけど、一抹の不安。グラールが戻って来たあの日から感じていた違和感。俺はまだその違和感の正体が分からないでいた。
『リストにいるのにか』
 言われて気付く。確かにケイさんは、リンクの接続リストにいた。
 あの人は、寝るときは必ずリンクパールを外す人だ。そりゃああんな事をした後だから、外し忘れてそのまま寝てしまったという可能性も捨てきれない。だけど、ケイさんは。
 違和感が、正体を、表す。
『寝てるんでしょ。なんなのあんた、ケイ置いてどっかいった癖に今更都合よすぎじゃない』
「ごめんエスさん、ケイさん呼び出してみて」
 けんか腰になるリンクシェルのメンバを遮って、俺はケイさんに連絡を取るように言った。
 自分で連絡する勇気がなかったわけじゃない。だけど、もしケイさんが起きていたとして、今俺やグラールが連絡しても、ケイさんは拒否こそしていないにしろ、応対してくれるとは思えなかったのだ。そして、俺の違和感が正しければ。いや、正しくない方がいいに決まってる。俺の想像が、ただの妄想であってくれればいい。だけど、もし、それが俺の考えている通りだったら。
 色々なことを誤魔化して、リンクシェルでは古参にあたるエスさんに連絡して貰うように頼んだ。彼女の連絡なら、ケイさんは無視するようなことはないだろう。彼女は渋りながらも、ケイさんに連絡を入れてくれる。
 どうか、どうかこの不安が思い過ごしでありますように。
 ケイさん、寝てるだけだよね。そうだよね。そうって言ってくれ、ケイさん。
『返事ないな』
『寝ててもこんだけわめけば気付くよ、ケイだよ』
『わたしも連絡入れてみたけど、ケイくん出ない』
 リンクシェルのメンバも不審に思い始めてくる。
 嗚呼。ダメだ、ケイさん。
「俺、ケイさんの家いく」
『俺も行く』
 グラールもまた、俺に続いた。
 レンタルハウスを飛び出して、同じジュノのレンタルハウスに戻ったはずのケイさんの家を訪ねた。扉を叩く俺の背後にグラールの気配を感じる。息を切らしたやつは、同じくケイさんの名前を呼びながらドアを叩いた。
 ケイ、ケイさん。
 当然だけど、ケイさんの部屋にはカギがかかっていて、外から開けることは出来なかった。でも、グラールも俺も、馬鹿みたいに確信していた。中に、ケイさんがいるってことを。
「おい、ドア壊すぞ」
 リンクシェルのメンバも集まってきて、ケイさんの家の周りはちょっとした騒ぎになっていた。そんな中なのに、グラールはいきなりヘキサガンを取り出すと、小さく構えてケイさんの部屋のドアノブに向かって撃つ。
 ジュノ上層に響く銃撃音。
「ばか、向こうにいたらどうすんだ!」
「考えて撃ったに決まってるだろ!」
 怒鳴りながらグラールがドアを蹴破って室内に走る。俺も後を続いてケイさんの部屋に入った。
 そこで、立ち尽くしたグラール。
 グラールの視線の先には、白い腕。


 

 

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