Chemical Reaction

 



 何十分待たされたのか、ようやくシャワーの音がやんだと思ったら、裸にタオルを引っかけてケイさんは出てきた。髪の毛から落ちる水滴が、カーペットに濃い染みを作っていく。
「ちょっと、風邪ひくし」
「お前が今から熱くしてくれるんだろうが」
 普通に聞いたら何いってるのとなる言葉も、ケイさんがさらりと言うと違って聞こえた。ベッドに腰掛けた俺の前にたったケイさんは、ゆっくりと腰を屈め、視線を俺にあわせる。その目は、最後通告のようにいいんだな、と言っていた。
 後悔なんか、しない。
 しっとりとしたケイさんの肌に手を置いた。
 引き寄せて、頬にキスをする。
 尻を掴んで膝の上に座らせると、ケイさんは少し躊躇ってから俺の肩口に額を押し当てた。
「一応ほぐしてきたけど、ローションかなんか持ってないか」
「マスターガンオイルなら」
 サイドボードから取り出したガンオイル。俺の武器に使う専用の潤滑油で、その原材料はゴブリン達の錬金術師が作った怪しげな潤滑油。人体に影響がないかどうかは、使ってみないことには分からない。その不安が筒抜けだったのだろう、ケイさんはサイレントオイルにしろ、と指定してきた。マスターガンオイルのが高いのに。
 指示通りサイレントオイルを取り出して手のひらにとる。ぬるつく指をケイさんの尻にあてがうと、彼の手が俺の指を誘導した。俺だって知ってる。男の身体で、何処に突っ込むかなんて、ひとつしかない。
「ゆっくり、頼む」
 その部分を指先で撫でると、ケイさんは少しだけ力を込めて俺に抱きついてきた。
「久しぶりなの?」
 そう聞くと、ケイさんはゆっくりと首を横に振った。
「違う。そこ、俺、使うのはじめて」
 思わず聞き返す。
「はじめてって」
「うるせぇな、ほぐしてきたっつってんだろ」
 突然怒り出すケイさんの後頭部を撫でて宥める。
「俺は元々突っ込む方なんだよ」
「ケイさん、あんたグラールにも突っ込む気でいたの」
 会話でケイさんの気をそらしながら、ぬるぬるの指が乾く前にそっと先端を押し込んだ。確かにほぐしてきた、というだけあってそこは柔らかくて、俺の指はそう大した抵抗もなく第一関節まで埋まった。
「うぁ、いや、あいつなら俺」
 あいつなら、俺。少しずつ指を押し込んでいく。
 グラールになら抱かれてもよかった、そう続くはずの言葉を俺は遮るようにして指を押し進めた。そんなこと聞きたくない。だけど、それでも、ケイさんが誰を思って今俺に抱かれているか、なんて分かりきってる事過ぎて。
 隙間からもう一本。指を増やして広げてみせる。
「あ、あ、あぁ」
 ぎゅうっと俺の腕を掴むケイさん。
「ケイさん可愛いな」
「クソいてえ」
 正直もっと色気のある台詞を言って欲しい。ケイさんらしいと言えばらしいけど。
 いいところ、あるんでしょ。
 どの辺。どこが気持ちいい。
 そう耳元で囁きながら指を深く埋め込んで、内側を探るように撫でる。呼吸を整える事も出来ずに、短い呻き声をこぼすケイさんが、指を動かすたびに俺に強くしがみついてきた。
「痛い、わけじゃなさそうだよね」
 その反応につい、そう囁く。

 

 

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