Purgonorgo/Onslaught

 



「調子は、どうなんだ」
 砂の中からビビキースラッグを捕まえては明後日に投げていたカデンツァにそっと問いかける。
「俺の?」
 そう返されて、少し悩んでどっちも、と答えた。
「俺は元気だけど、レヴィオはまだ本調子じゃない」
「そうか」
 これ以上何を話していいか会からなくて、バケツに無造作にジャックナイフを突っ込んだところでカデンツァが横からビビキーアーチンを俺のバケツにほうり込んだ。軽快な音を立ててバケツの底が抜ける。
「ちょ」
「あ、抜けた」
 悪びれもせず酷い状態になった俺のバケツをのぞき込んでカデンツァがそう言った。それがなんでか凄く面白くて思わず笑ってしまう。
「酷いな」
「ごめん」
 謝ってはいるがちっとも悪いと思ってなさそうなカデンツァの口元が微かに綻んだ。それはカデンツァの笑顔の記憶がない俺にとって息を飲む瞬間だった。目に焼きついた唇が何かを紡いだが俺の耳にその音は届かず、バカみたいに呆然とした俺にカデンツァが不思議そうに目を細める。
「バケツ、持ってこれば。新しいやつ」
 正直真っ先に底抜いたやつに、というかカデンツァのせいで底が抜けたわけだが。俺はしぶしぶその場を離れ桟橋のミスラに新しいバケツを貰いにいくハメになる。途中でトサカとルリリとすれ違い、底が抜けたバケツを笑われたが曖昧に笑って誤魔化した。何となくあの一瞬だけは、俺だけのものだった気がしたから。
 新しいバケツを貰って帰ってくると、カデンツァが殻に篭って震えるウラグナイトを必死でこじ開けていた。隣でルリリが笑い転げていて、底が抜けたバケツが同じように転がっている。
「今度は何をしているんだ」
「潮干狩り」
 笑いながら答えるのはトサカ。
 絶対違うと思ったが、貝を狩るという意味では同じなのかもしれない。
「わたしがね、ネビムナイトを見つけたから後で焼いて食べましょうねって言ったら」
 背中を丸めてルリリが笑う。
「カデンツァがあっちにもっと大きいのがいる、って」
 そこで堪えきれずにトサカも笑い出し、ウラグナイトなんて喰ったことないと腹を抱えた。
 食べることや食べるものについて色々と思うところはあるが、なんだ、楽しいじゃないか。
「は、バカだ、はは、絶対美味くないだろそれ」
 同じように腹を抱えて馬鹿みたいに笑った。その間もカデンツァは殻の裾から微かに出ている触手を引っ張ってはこじ開けようと必死だ。
「喰ってみねえとわかんねえだろ」
「みんなで食べるなら大きいほうがいいわね」
 普段なら間違いなく冷めた目でそんなもの食べられるわけがないと言い切っていただろう。
 普段なら何を馬鹿なことをやっているんだと咎め、やめさせようとしただろう。
 ウラグナイトには毒があるとか、身はどこにあるのか、とか、どう考えても殻ばかりで食べられるところは少なそうなのにとか思うところは色々あるのに、今はそんなことよりもこいつらと一緒になって笑って、そして食べてみたいと思える。
「あっちにカブがいたから、そいつもついでに煮込んだらいいんじゃないか」
 後ろの岩場を指しながら絶対に俺なら言わないであろう台詞を口に出す。
 ルリリが一瞬驚いた様子で顔をあげて、すぐに破顔した。
「鳥もいるわ」
「奥にタコいただろ」
 続いてトサカ。
「デザートのクロットも!」
 目を輝かせたルリリが全身で喜びを表現した。
 まさにフルコースだ。


 

 

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