Purgonorgo/Onslaught

 



 結局その後は当初の予想通り潮干狩りそっちのけで海氷浴を楽しんだり、ビーチバレーをしたり楽しい時間はあっという間に過ぎていく。日が傾き、肌寒くなってきてようやく俺たちは本日最終のマナクリッパーに乗り遅れたことに気付いた。
 まあ、いいんじゃないかと暢気に笑うトサカと、本気で食べるつもりなのだろうウラグナイトと再び戦いを繰り広げるカデンツァ。それを見て笑ってるルリリ。普段ならいらいらするであろう光景も、不思議と穏やかでただゆっくりと時間が流れていく。
 完全に日が暮れて、昔よくやったように内陸の岩陰で野営の準備をした。
 ルリリがネビムナイトをいくつか火にくべて焼き、持っていた山串や海串を一緒に温めて食べる。カデンツァが殻に閉じこもったままのウラグナイトを引きずってきたが、それはトサカがやんわりと止めた。ほっとしたのは否めない。多分後にも先にもウラグナイトの流す涙を見ることが出来た冒険者は俺たちだけだろうと思う。その後は打ち解けたのか、カデンツァとルリリ、そしてウラグナイトが浜辺で戯れるという世にも奇妙な光景を目にすることになったのはきっといい話。
 弱まった火に新しい薪をくべるトサカがもういいのか、と最後の山串を差し出してくる。
「お前はいいのか」
「俺は結構食ったよ」
 ありがたく頂いてかじりつき、口の中に広がる肉の味に満足感を得る。
 こんな食事も久しぶりだった。
「ああやってみると子供みたいだな」
 視線の先のカデンツァを目で追って、なんともなしにそう呟いた。
「子供なんだよ。本来ならまだ16歳の子供なんだ」
 他意はなかった。ただ本当に、いつも感情をはっきりと顔に出さないカデンツァが珍しかっただけで、22歳というには大人びた雰囲気に隠された本当を垣間見た気になっただけだった。だから、まさかトサカからそんな言葉が返ってくるとは思っていなくて思わず謝った。
「いや、悪い」
 聞いているこちらが切なくなるような、後悔を含んだトサカの言葉。
「ごめん、すまない」
 頭を抱えたトサカの様子が酷く憔悴しているように見えて、ため息混じりに背中を軽く叩いた。
 今現在を大切にしてやればいいじゃないか、そんな言葉を思いついたがうまく言えそうにない。数年前に何があったか分からないが、それがあって今がある。そんな今のカデンツァを俺は好きになったのだ。
「俺に言われたくないだろうが、後ろばっかり見ててもしょうがないだろ。お前には掴んだ未来があるだろうが」
 言った瞬間、トサカ野郎の肩が震えて殴りたくなった。
 食べ終わった串を薪に放り込んで悪態をつくと、ようやく顔をあげたトサカが笑いながらありがとうと言った。ああ、お前は腹が立つほど無駄に爽やかなトサカ野郎だよ。どれだけ作っても俺には到底真似出来そうにない。
「お前がいて、よかった」
 柄にもないような台詞が次々と出てくるのはきっとプルゴノルゴ島という特殊な環境だからだ。
 こんな素直に言葉が口をついて出てくるのは特殊な状況だからだ。
「俺も、お前がいてくれてよかったよ」
 間違いなくカデンツァを目で追いながら、トサカはそう言った。
 その言葉は感謝の言葉でもあり、そして俺の役目がおわったことも同時に示す。
 寂しいという感情は何故か湧かなかった。
 ただ、漠然と、終わったのだと思った。
 気持ちの整頓はまだ暫くつかないだろう。

 それでもどこかに、ひとつの区切りがついた気がした。
 


 

 

End