No good news today/Onslaught

 




 アラパゴに連れ去られた捕虜を一日かけて全員解放し、ついでにアプカルをハムシーで釣ってひとしきり遊んだ帰り道。俺が盗んだアプカルの卵を見て珍しく、オムレツが食べたい、だなんて言い出すから奮発して高価な食材を買った。
 調理担当は当然のように俺。
 何でも器用にこなすと思っていた、と毎回のように言われる俺だが、実際は典型的なエルヴァーンなので言うほど器用な方ではない。料理なんて一言で例えるならば「男の手料理」以外何ものでもなかった。備え付けの使いづらいで有名な簡易キッチンで格闘すること小一時間。コンボ短勁乱撃で出来上がってみれば、見た目はともかく味はなかなかの王国のつもり風オムレツに一人自己満足。
 食卓に並べ、買い置きの葡萄酒の封を切って、じっと待つカデンツァのグラスにそそいだ。
 スプーンを握り締めて、そそがれる葡萄酒を見ていたカデンツァが、ふと視線をあげる。俺と目が合うと、ガーネットの瞳を僅かに細めてカデンツァは笑った。
 それだけで俺は何とも言えない温かい気持ちになる。
 多分、これを幸せというのだろう。

 遅めの夕飯は、王国のつもりオムレツと葡萄酒、そして甘いキス。

 俺とカデンツァの時間は、こんな状況にも関わらず緩やかだ。
 なんとなく、でマムークの奥地に三日ほど籠もってみたり、ハルブーンで古鏡を割ってまわったり。ふらりと足を伸ばした先で気がつけば数日滞在など当たり前で、それなのに何処も行かないときは一週間単位でアルザビに居座り続ける。毎日、それこそいつでも一緒に居るわけではないが、カデンツァの時間の8割に俺が居ることだけは確かだ。
 たったそれだけのこと。
 それだけのことなのに、なぜかそう気付いてしまうと涙が出そうになる。

 食事のあとは、ベッドで抱き合って久しぶりに肌を重ねた。
 しよう、とかけられた穏やかなカデンツァの言葉。いつも疑問系だった言葉が、最近明確な意志を持ち始めた。頷いて柔らかな髪の毛に指を絡め、身を屈めて口付ける。
 華奢なその身体に触れれば、僅かに力が込められた。熱い内側を身体の一部で感じれば、カデンツァはぎゅっと目を閉じる。未だ根強い、長い陵辱の記憶。上手に呼吸できず、苦しそうに喘ぐ頬を撫でて、ゆっくりと息を合わせて待った。
「大丈夫」
 潤んだガーネットが、ベッドランプの明かりを映す。
 だいじょうぶ、気持ちいい。まるで自分自身に言い聞かせるように繰り返して、カデンツァの腕が俺の首に回された。引き寄せられて、いっそう近くなって、深くなって、思わず呻き声を漏らした唇を塞いだ。
 これ以上ない程重なって、強く抱きしめる。
 ゆっくりとした律動。
 カデンツァは未だ素面では射精には至らないし、勃起も不完全だ。それでも言葉に出来ないところが満たされると言った。あの頃、俺だけでもこうやって優しく抱いてやれば良かったのだろうか、と思ったこともある。だけどそうしたところで道具だったことには変わりなく、むしろそういう行為をしてくるエルヴァーンが一人増えるだけだ。それに多分、騎士団の上層部のご老人どもは随分とカデンツァを可愛がっていたから、最終的に抱くことが目的だったとしても優しかったのではないかとも思う。あの異常な場所と、常識を逸脱した行為がカデンツァの心を壊した。それら全てに異を唱えず、黙って加担していた俺もまた、本来であれば裁かれるべき罪人なのだ。


 

 

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