Cursed/Onslaught

 





 ───一晩15万、これがお前の取り分だ。三日我慢しろ、合計45万で5万は負けてやる。


 それに頷いたヒューム。
 その時点で契約は成立した。

 彼は三日、天晶堂取引先の男にその身体を委ねる。取り分の価格は破格だが、その分『殺さなければ何をしてもいい』という契約だ。世間知らずなヒュームの子供には想像も付かない世界がそこには転がっている。手足を切り落とされたとしても、生きているなら何をしてもいいのだから。
 フォルセールはカデンツァにそこまで言うことを躊躇った。
「どうしても耐えられなかったら、これを使え」
引き渡す直前、小さな手の中に握らせたのは一粒の錠剤。
 その効能を、フォルセールは伝えなかった。

 見目麗しい、少年から男へと変わっていく過程の中にいるヒュームほど儚げで美しいものはいない。
 その変貌は一瞬で、後は無骨な男へと変わってしまう。その直前を摘み取る行為の、なんと甘美なことか。



「あぁ、ア」
 腰を押さえ付けられ、内を執拗にかき回されるとカデンツァの口からは自然と声が溢れた。
 決して気持ちがいいわけではない。本来ならば受け入れるべきではない場所で、他人の熱を感じる事はカデンツァにとって苦痛でしかなかった。幾度となく抱かれながらもその苦痛は和らぐことはない。
 ず、す、と肉を擦る嫌な音だけが耳に届く。

 三日だ、たった三日。
 大聖堂で過ごしてきた何十分の一かを我慢すればいいだけだ。
 それが終われば、目の前に広がるのは自由という名の世界だ。

 神に愛されて生まれてきたと思っていた。
 アルタナ様が遣わし給うた、神の御子だと。
 全てまやかし。
 神など、何処にもいやしないのだと、助けてくれる者など、いないのだと。
 どれだけこの手を伸ばそうとも、指先すら握ってくれる手はない。
 祈りなど、最初から、何処にも届いていなかったのだ。


 それでもこの零れてくる滴は、誰がために流す涙か。


 泣くほどつらいと思われたのか、大きな手が睫毛に溜まった涙を拭っていった。抱えられた太ももは小刻みに震えるが、身体の中心は何の反応も返さない。
 こんな空っぽの人形を抱かされる方が可哀想だと、カデンツァは目を閉じた。
 せめて、お金を貰った分くらいは、声を上げて。今だけ、この瞬間だけでも、あなたのものだと錯覚させることが出来たら満足して貰えるだろうか。

 痛みはない。
 快楽もない。

 其処には、何もなかった。



 

 

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