石畳の緋き悪魔/Onslaught

 




「よかったのか、友人じゃないのか」
「声かけたら飛びついてきた癖によく言う」


 白魔道士に突き上げられるままに身体を揺らす俺を見ながら、監視者と汚れた白き鎧の男が話している。それすらも、どこか遠い話のようだ。
 俺はきっと夢を。昔の夢を見ているのだ。
 白魔道士の手は、俺の全てを撫で上げるかのように体中を滑った。
 首筋、鎖骨、そして胸。
 その手の感触すら気持ち悪くて唇を噛む。
「もっと抵抗するかと思ってた」
「しねえよ、躾が行き届いてるのさ」
 抵抗したところで何も変わらないと教えたのはお前だ。
 可愛がって貰った方が得だと、そう俺に言って、自ら足を開かせるように仕向けたのはお前だ。
 そして、お前は味方は自分一人だと、俺にすり込んだのだ。
 愚かな俺はお前を味方だと思い込んだ。救いの手を伸ばした。
 お前はどんな気持ちで、俺の手を取った?
 愚かな俺を嘲笑いながら、お前は俺をロンフォールに解き放ったのだ。
「どうするんだ、喋られたら」
「喋らない。誰に言うんだ」
 レヴィオの手には俺の携帯端末。先ほどから荷物を引っかき回していると思ったら、探していたのはそれか。
「友達とか」
「馬鹿言ってろ、男に強姦されましたなんて言えるか?」
 思いの外小心者のナイトに笑いがこみ上げる。
 こんな事、誰に言えるっていうんだ。誰に言うんだ。いい笑いものだ。
「意外と登録してんな」
 嗚呼、返せ。俺の携帯端末。
 そこには、今の俺が。其処にあるのは、今の俺なんだ。
 過去なんてない、俺の新しい世界だ。

 そこに、居ていいのはお前じゃない。
 過去の奴らの名前なんてそこにはない。俺は全てを置いてきた。あんたのとこに置いてきた。

 其処にあんたはいらない。

「さわんな、それに」
 何を言っているんだ、という目で見てくるレヴィオ。
「邂逅を後悔しろよ、レヴィオ」
 あの日、俺を解き放ったことを。
 今日、俺に出会ったことを。
 そして俺に本当のことを話したことを。


 ずっと死ぬまで騙していてくれたら、俺はお前に感謝していたんだよ。


 

 

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