石畳の緋き悪魔/Onslaught

 



 

「何しやがる!」

 白魔道士とは思えないような凄い力で地面に押さえつけられて俺は呻いた。ぎりぎりまで近づいてくる気配に気づかず寝ていたのも悪かったが、まさかこんな状況になるなんて思いもしなかった。
 掴まれた手首が音を立てて軋む。なんて力だ。
「レヴィオ!」
 恐ろしい力で俺を押さえつける白魔道士は無表情で、俺の腰にまたがったまま俺を見下ろす。その目があまりにも無機質で寒気がした。レヴィオは少し離れたところでじっと俺を見ている。
 彼の視線は、監視者だった。
「レヴィオ!」
 もう一度彼の名を呼ぶ。
 寝起きと、疲労とで腕に力が入らない。焦りが頭の回転も、身体の動きすらも鈍くした。
 蘇る遠い記憶。押さえ付けられてきた全て。
 レヴィオの変わらない視線が、全てを思い出させる。
 どれだけ名前を呼んでも、どれだけ手を伸ばしても届かない。やはりお前は、監視者だったのだと思い知る。
「ごめんな、カデンツァ」
「なん…」
「俺はお前がそうやって押さえ付けられて、泣き叫んで、絶望した目で俺を見るのが、好きだったんだ」


 いつしか降り出した雨に打たれながら、俺は白魔道士に押さえ付けられたまま身体の中心にナイトの醜悪な性器を受け入れる。無理矢理開かれた足が震えたが、誤魔化すように首を横に振った。
 諦めのため息は熱い吐息と勘違いされ、ナイトは鼻息を荒くする。身体の中で一回り大きくなった性器をリアルに感じ、思わず呻いた。
「ほんと綺麗な子だな、レヴィオ」
「そいつ自覚してないけどな」
 レヴィオの声が遠い。
 身体の中を深く抉られるのも、かき回されるのも、まるで遠い場所での出来事のようで。
 ただ身体に打ち付ける雨が、酷く、痛い。
「声出せ、カデンツァ」
「う、ンン」
 夢を見ていた。
 俺は立派な修道士になるのだと、アルタナに全てを捧げるのだと。
 だが、アルタナの代わりに俺の全てを貪ったのは同じアルタナの子だった。
 俺にだって分かる。それが信仰でないことくらい。

 俺の祈りが届くことがないことくらい。
 信仰など、なんの意味もないことくらい。

 レヴィオは、最後まで監視者だった。
 俺は、救いを求めるなどという愚行を繰り返すことはなかった。

 真っ逆さまに堕ちていく、そこは、奈落か、深淵か。


 

 

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