Quirk of fate/Onslaught

 



 あの時出来なかった二回戦目をやりたい、とリンクシェルでの発言があったのは、至極当然の成り行きだと思う。
 本来イリズイマを二戦やる予定だったものを、俺が途中で離脱し、それを追いかけてきたツェラシェルも離脱すれば、いくら慣れた相手でも不安にもなる。戦力に余裕がなかったわけではないけれど、いきなり誰かが欠けてしまえば仕切り直すのも難しい。当然俺の責任でもあるから、いつものように声をかけられる前に、自分から行きます、と伝えた。
 主催の黒魔がリンクシェルのメンバに次々と予定を確認するのをただぼうっと聞いて、あれ以来初めて顔を合わす事になるんだな、とまだ承諾もしていないのに莫迦なことを考えた。今更どんな顔をして逢えばいいのかさっぱり分からない。案の定ツェラシェルは普通に承諾し、暇そうな連中も次々と快諾していった。
「あぁ、俺今日無理。別件で予定入ってる」
 だけどリンクシェルで唯一のシーフがそう言った。まじで、困ったな、とか続くから、ああ、じゃあ今日はなしかな、と思ったところで予想もしていなかった言葉が投げられる。
「ねぇ、カデンツァってシーフのフレいるよね、その人呼べない?」
 思わず聞き返したら、少しだけ驚いた様子で黒魔が言った。
「この間ジュノで一緒にいた人」
 心臓が飛び跳ねた。どこまで、見られていたのか、と、無駄に動悸が速くなる。
 いつのジュノだろう。この間というからにはそう遠くない。ということは、無様に泣いたあの時か。
「仲良さそうだったからフレかな、と。ダメかな」
 お礼はするし、聞くだけでも聞いてみて貰ってもいいかな、と頼み込まれて、近くに居るはずのないツェラシェルの姿を探した。ツェラシェルに何を聞くつもりだったのか、地面に視線を落として聞こえないようなため息をひとつ漏らす。
「聞いてみるけど、急なことだから期待はしないで欲しい」
「分かってるよ、ありがとう」
 リンクシェルに聞こえないように、大きなため息をついた。
 まさかこんな事で連絡を取るハメになるとは思ってもいなかったし、それ以上にどうやって連絡を入れたらいいのか分からない。確かにあのサンドリアに戻るときに連絡先は交換したし、いつだって連絡出来る状態にはある。それでも、自分から連絡を入れた事なんてなかった。
 携帯端末を握り締めて、見知った名前を選択する。
 レヴィオ。
 でないで欲しい。今忙しい、と、断って欲しい。
 でも、こういうときに限って運命の女神は俺に冷たく無情だ。
『カデンツァ?どうした、何かあったか』
 端末越しに聞こえる声はいつもと同じで、柔らかく心地よく耳に響いた。
「いや、あのね」
 切り出すと意外と用件はすんなりと出てくるもので、今からリンクシェルでイリズイマをやるのだけど、シーフの都合が付かなくて、とまで言うとすぐに分かった様子で、いいよ、とだけ言われた。こういうとき、シーフに切り出す頼み事なんて十中八九こういった事だ。彼らの宝物を見付ける鼻の良さと、勘。それを当てにするのだ。
 嗚呼。
「今からなんだけど」
 断って欲しくてもう一度繰り返した。
『悪いな、生憎と暇なんだ』
 見透かされたように返される言葉。
 観念して集合場所をワジャーム樹林の、と言おうとしたところでさらりと告げられる待ち合わせ場所。15分ほどで行くから、と言われて断れるはずもなかった。
「来て、くれるって」
 リンクシェルでそう言ったら、黒魔が安堵したようにありがとう、と何度も繰り返した。
「よかった、じゃあ決行で。1時間後にワジャームのいつもの場所ね」
 承諾の声が続く中、ツェラシェルだけが無言だった。
「ゆっくりで、いいよ」
 携帯端末にそう言うと、向こう側で微かにレヴィオをが笑った。

 

 

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