Prayer/Onslaught

 





 俺はあまりにも惨めだ。


 朝の祈りを捧げていると、レヴィオが呼びに来た。
 何をされるのかと思ったら、アルノー様が特別に風呂を準備してくれたらしい。もてなし、が現実味を帯びる一瞬。アルノー様の私室に準備された、美しい純白のバスタブ。張られた湯の中にはライラックの花が浮かべてあった。
「ライラックは、テオドール様からもてなすおまえへの贈り物だ。十分にその香りをつけておきなさい」
 レヴィオの手によって、ゆっくりと脱がされていく服。
 予想通り、俺はテオドール様に文字通り差し出されるのだ。レヴィオは断れ、と言ったけれど、最初から俺に選択権など存在しなかったわけだ。
 バスタブに寝かされ、レヴィオの指が体を丁寧に洗っていく。
 もう裸を触られるのも、見られるのも随分と慣れた。どこを触られようとも、そこが体の外側でも内側でも、それはただの指の感触に過ぎない。
 たった2年で、俺の体はぼんやりとしか痛みを感じなくなった。これは自己防衛か、それとも、痛覚の欠如なのか。それは都合がいいと同時に、限界も曖昧になる。揺さぶられている最中に、意識を失うことも多くなった。
 意識を失ってしまえば、見なくていいものを見ずにすむ。
 それは究極の自己防衛だった。
 レヴィオがアルノー様の死角で、そっと俺の頭を抱えて撫でてきた。それは頑張れよ、という意味なのか、可哀想だなという同情なのか、俺にはわからないままだった。


 風呂が終わると、アルノー様は俺を裸にしたままレヴィオを部屋から追い出した。
 訝しげなレヴィオの視線。戸惑う俺にアルノー様が言う。
「カデンツァ、後ろを向いて壁に手を」
 よく分からないまま言われたとおりそうすると、後孔にぬめった何かが押しつけられた。
「これが何か、分かるかね」
 いやな予感はしたが、分かりません、と首を横に振ってみせた。先が細く、今にも入り込んできそうなぬめった物体などそうない。生きた何かかと恐る恐る振り返ると、アルノー様の手に握られていたのは緑色のつる。モルボルのつるだ。
「い、や、です、何を」
「力を抜きなさい」
 やはり俺に選択肢など存在しないのだ。
 アルノー様の指が入り口を押し広げ、つるの先端が押し込まれる。喉が鳴った。モルボルのつるは太い部分で、俺の手首ほどありそうだ。徐々に太くなっていく感覚に恐怖で膝が震える。
「ひ、抜いて、抜いてください」
 入り込んでくる、ぬるりとした感触に壁についた指が色を失った。
 随分奥まで差し込まれた状態で、アルノー様は手を止める。体の中にとどまる異物が、時折波打つように動いた。
「抜いてくださっ」
「ふむ」
 珍しく素直に手を止めてくださって、ほっとしたのもつかの間。引き抜かれるつるは、なぜか傘を開いたように内側で広がり、内壁をこれでもかと擦った。
「アアァ!」
 俺はすぐに抜かないでください、と懇願するはめになる。
 零れた涙を指で掬われて、もう一度つるを押し込められた。押し出されるように涙が溢れる。
「締めていなさい、抜いてはいけないよ」
「い、まから」
 そう自分で言って気がついた。
 アルノー様は、これを中に入れたままで、俺に講話しろと。それですべてを悟る。
 最初から、こうさせるために、俺に講話の話を持ちかけたのか。本心から、出た言葉ではないのだと。最初から、俺に講話など、させる気はなかったのだと。
 ただの戯れ。
 愚かなヒュームが、尻につるを入れられたまま羞恥に頬を染め上げて壇上に立つ姿を見たいがための遊び。変態アルノーらしい遊戯を思いついたものだ。
 レヴィオの言葉が今更になって頭の中で響く。
 テオドール様はアルノー様のご友人で、あまりいいご趣味ではない。
 まさしくその通りだ。

 講話の話に飛びついたのは、罠にかかった愚か者。

 


 

 

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