Departures-1/Onslaught

 



 突然、暫く逢わない、と言われた。

 原因に思い当たることも、心当たりもない。
 俺は気付かないうちに傷つけてしまっていたのか、それともやはり俺の存在自体が耐え難い苦痛だったのか。逢えない、ではなく逢わない。その言葉の意味を理解するのに時間を要した。
 気の利いた言葉も、分かったとも返せないまま、端末越しに固まってしまった俺に、カデンツァは小さく謝った。動揺をひたすらに隠して、とにかく繕ってまた落ち着いたら連絡が欲しいとだけ言って、返事も待たずに端末を閉じる。
 連絡なんて、来るのか。
 そう自問自答を繰り返し、最悪の想像をして目頭が熱くなる。驚くほど力の抜けてしまった膝で、よろよろとベッドに腰掛けた。俺の世界の一つが、音を立てて崩れた気がした。元々堅強な地盤でもない足下が、あっという間にぬかるんで、ずぶずぶと沈み込んでいく。
 薄暗い部屋の中で一人、俺は現実を受け入れられないでいた。

 最後にカデンツァに逢ったのは二日前になる。
 普通に食事をして、そのまま二人で市街戦に参加した。変わったところなんて何もなかった。
 その日は連続した蛮族軍の襲撃を受けていて、結局全部退けた頃には明け方近くなっていた。お互い疲弊していたし、どちらの部屋にも寄らず、じゃあまた、と労ってレンタルハウスの前で別れた。
 小さく囁いたまたね、の言葉。
 あの大きな眼が細められ、唇の端が僅かに上がったのをちゃんと覚えてる。
 覚えてる。
 俺は我が儘だ。
 色んな思いを抱えたまま、両手で顔を覆う。

 指の隙間から、床へと、音を立てて涙がこぼれた。


 

 

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