Crazy Heart/Onslaught

 



 気に食わないやつがいると、何かと粗探しをしてしまうのは何故だろうか。
 だが、あいつは身に纏うものも、動きも、こちらの要求したレベル以上に活躍し、結果を出した。粗探しをしてやろうと手ぐすね引いていた俺がそう思うのだ。他の連中からはさぞかし素晴らしく映ったに違いない。
 あいつはまるでもリンクシェルメンバの一員のような雰囲気で溶け込んで、俺が手配した手伝いのメンバが帰還した後も、カデンツァとともに空活動に残ることになった。当然だが、これは指揮を執る黒魔の意向であって彼らが望んだわけではない。だが、もうしばらくすれば黒魔はあの二人を一緒に活動しないかと誘うだろう。
 複雑な気分だ。
 カデンツァと空活動を一緒にしたいと願っていたけれど、了承するかは別としてこんな形で実現するかもしれないとは。
 ル・オンの庭の一角に集まって、侵入者を排除するために配置されたドール達を取りまとめる司令機を探す。襲い来るドール達を打ち壊しながらカデンツァに視線を向けた。
 弓のようにしならせる、細く華奢な身体。
 内に眠る魔物にその身を差し出し、ザッハークの印とともにその力を瞬間的に解放し、そして苦悶の表情を浮かべながらそれをまたしまい込む。それを行使するたびに疲弊して行くであろう身体、そして精神。
 いつも以上に青白いその顔に思わず駆け寄った。
「カデンツァ」
 手を伸ばしかけたその指先が。
「バカ、ツェラシェル!」
 カデンツァの腕に届くと思われた瞬間だった。
 いつもならあり得ないミスだ。俺の目の前で、自爆モードに移行中だったドールが閃光とともに弾け飛んだのだ。視界が霞み、身体が浮いた。伸ばした手は何も掴まず、カデンツァは驚いた瞳で、そのガーネットの瞳が、俺の目の前で揺れた。耳元で轟音がしたと思ったのに、その後音は何一つ聞こえなかった。


 気がつけば、心配そうに俺の顔を覗き込むルリリの顔がそこにあった。
 身体を起こそうとして思わず呻くと、ルリリの小さな手が俺の額をそっと撫でる。少しだけ暖かくて、柔らかい、心地よい手のひらだった。
「よかった、ツェラ様。わたし、判断が遅れて、ごめんなさい」
「いや、俺の担当だった。俺のミスだ」
 酷く掠れた声が喉から零れて、自嘲気味にため息をつく。
 無様だ。
「被害は」
「ツェラ様だけで済んだわ」
 カデンツァは無事だったか。そう分かれば詰まっていた息がゆっくりと吐き出された気がした。
 上半身を起こすと、ルリリはじゃあわたしは戻るわね、とその小さな身体を揺らしながら戦闘区画へと戻っていく。そこにはカデンツァが、あいつが、みんながまだ戦っている。そこに自分だけがいない。
 酷く無様だった。
 何度目かのため息を吐いて、ふと陰った前を見れば、そこには青白い顔のカデンツァが立っていた。
「大丈夫?」
「お前こそ、酷い顔色だ」
「あんたも」
 そう言われて思わず吹き出すと、カデンツァも微かに笑った気がした。立ち上がろうとするのをカデンツァにやんわりと制止され、どういう事かと見上げればまだ座ってろということらしい。
「送ってく。後は残りのメンバでなんとかなりそうだからって」
 俺は、と言いかけてやめた。これ以上恥の上塗りをしても仕方がない。
 カデンツァの前でいい格好をしたかったわけではない。だけど、結果的に無様な姿を見せることになった。お前の事、考えていたんだ、なんて言えないけれど、俺はこんなにも脆いことを知った。
 お前が、教えてくれたんだ。
 

 

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