Burn my Dread/Onslaught

 



「ここ使ったのか」
 酷い言い方をしている。自覚はあっても止まらない。
 指はまるで独りでに動き出すようにカデンツァの尻を滑っていく。いつも無理矢理こじ開ける場所はほぐれているわけでもなく、濡れているわけでもなく、普段と変わらず俺の指を拒んだ。
「なんっ、で」
 壁に手をついて、戸惑いながら俺を見ようと首を後方へと向けるカデンツァ。
「ここを、使ったのかと聞いているんだ」
 は、と短い吐息が漏れた。それは当然だが歓喜の吐息ではない。
 乾いてもいないが濡れてもいない、そんな場所に指を無理矢理押し込めた。指を締め付ける肉の感触、小さい呻き声。
「俺以外と」
「してない、あんただけだ」
 その言葉が真実なのか。
 それは俺の受け取り方次第なのだと悟った。俺はきっと、カデンツァのその言葉を信用することが出来ない。俺は醜い嫉妬をしている。それは全てを曇らせて、視界を覆ってしまうのだ。
 カデンツァの言葉はいつだって真実だ。
 分かってる。
 分かってた。
 ウソだ、と叫びたくなるほどのどす黒い感情を抑え込んで、カデンツァのなかをこじ開ける。内側が柔らかいのも、熱いのも、肉が指を締め付ける感触も、全て真実。俺の知っている全てだった。それが真実かどうかなんて、どうでもいいことだったのに。
「カデンツァ」
 壁に押しつけたまま、手を重ねた。
 押し入れた指と肉の間を、何かが埋めていく。それが今朝方俺が出したものなのか、それとも、魔物の身体が行う自己防衛なのか分からなかったが、少なくともこのままカデンツァをむやみに傷つけることはなさそうだった。
「カデンツァ」
 名前を呼んでも、カデンツァは黙ったまま、壁に頬を押しつけて息すらも押し殺す。
 カデンツァ、カデンツァ。カデンツァ。
 何度も耳元で繰り返し呼ぶ。一度はやんだ雨がまた降り始め、霧のような雨が天から降り注ぐ。前髪からたまった雫が頬を流れ、まるで涙のようだ。
 ゆっくりと、だけど性急にひとつになって、下から何度もカデンツァの小さな身体を突き上げる。壁に這わせた指先が力の入れすぎで震えても、止まることはなかった。やがて僅かに嫌な音を立ててカデンツァの奥で全ての欲望を吐き出すと、カデンツァはようやく詰まっていた息を吐き出した。
「あんたは、」
 途切れた声。肩で息をしたままカデンツァは壁にそってずるずると地面へと座り込む。尻から伝った俺の精液が、雨で濡れた地面にじわりと拡がるのが見えた。
「簡単に足を開く俺が、あんた以外にもそうしてると思ってる」
 重ねた指を強く握られて心臓が飛び跳ねた。
「否定はしない。俺はそうやって今此処にいるから」
 突然の独白に、高鳴った心臓がバカみたいに脈打った。
 予感だ。これは、間違いなく、───予感。
「カデンツァ、俺は」
「俺はさ」
 珍しく、強くカデンツァに言葉を遮られる。
「ツェラシェルを安心させてやれない」
 満足も、と続いた言葉に、俺はカデンツァに何を求めていたのだろうと自問する。
 安心したかったわけではない。満足したかったのだろうか、それも違う。安易に身体の繋がりを求めて、それが受け容れられと思っていた。少しでも、俺を見てくれたらいい、と。
「あんたは、俺じゃダメなんだ」
「違うだろ!」
 繋がった指先を握りしめて叫んだ。
 違うだろう、カデンツァ。
「お前が、俺じゃダメなんだろ!」
 あぁ、なんだこの沸き上がってくる熱いものは。
 じわりと胸から拡がった熱は、全身を覆っていく。
 俯いたまま、カデンツァは微かに笑った気がした。
「違うんだ、ツェラシェル」
 何が違うんだ。
 何が違うのか説明してくれよ。
「あんたと、もっと早く逢いたかった」
 ゆっくりと振り返ったカデンツァは、酷くつらそうに、唇を開いては閉じた。

 その唇は、声こそ出さなかったが、さよなら、と───。


 

 

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