Giddeus/Catastrophe

 




 赤草布が競売になかった。
 その元になる赤草糸も、その前の赤モコ草も当然のようにない。履歴を遡ってみたけど最近では出品されている気配すらなかった。
 ジュノ競売の前で困り果ててみたけれど、張り付いていてもきっと出品はない。先ほど港のバザー通りも歩いたけれど殆どが古銭や旧貨幣で素材を取り扱ってる人は僅か。その中にも赤草糸はなかった。
 とりあえず一番ありそうなウィンダス競売を見に行くことにして飛空艇に飛び乗ってみる。そこにもなかったら諦めて草刈鎌でも握り締めてギデアスに行けばいい。幸い地味な作業は好きだし慣れてるんだよね。
 哀しいことだけどさ。
 小一時間ほどでウィンダスについて、そのまま森の区競売まで走る。途中で織工ギルドをのぞいてみたけれど、合成にいそしむ人も買い物をしている人も赤草布らしきものは持っていなかった。
 結局ウィンダスの競売にも出品はなくて、いつもの水の区雑貨屋に草刈鎌を買いに行ったついでにレストランでウィンダス風サラダのトルティーヤを買った。腹が減っては挑発も出来ない。
 正直サンドリアンな自分的にはウィンダスってすごく遠い国で、どちらかというと田舎のイメージが強い。所属している人には失礼な話だけど危機感があまり感じられないというか、本当に獣人と戦争しているのだろうかというか。人のことは言えないけどタルタルたちはすごくのほほんとした雰囲気で表向きはとても平和に見えた。冒険者生活の中、ウィンダスのやんごとなき裏事情を知ってもウィンダスへのイメージは変わることなく今に至る。
 まあ、ぶっちゃけるとタルタルかわいいし、ご飯はおいしいし、ミスラは美人だし露出度たかいし胸でっかいし、いいとこですよねー。
 一瞬何のためにウィンダスに来たのか忘れそうになった。
 とりあえず腹ごしらえ。モグハウスで食べようとトルティーヤを持って向かっているとモグハウスわきに見慣れた背中が見えた。
 ヴァルだ。
 なんだか難しそうな顔をして小さなタルタルと喋ってる。これはラッキー。邪魔しちゃ悪いと思って素通りしようとしたら目ざとく呼び止められた。
「待て、フリッツ」
「な、なに。ごきげんよう、久しぶり」
「何言ってるんだ」
 ヴァルは少しだけ呆れ顔で自分を見てから、喋っていたタルタルに別れを告げた。
 大事な話してたんじゃないのかな。いいのかな。自分のことはいいから話を続けてくれていいのに。そう思うのに軽くヴァルに手を振って別れたタルタルはさっさとモグハウスのほうへと走っていった。その姿を目で追いかけていたらもう一度名前を呼ばれる。
「フリッツ、どうした」
 どうした、ってこっちのセリフだよ。
 最近会えば絶対エッチなことするじゃん。この間は指まで入れてきたし。
 エッチなのはよくないと思います。
「今日は赤モコ草とりにいくから、指いれるのまた今度にしてよ」
「おま、そんなオレがいつもそういうコトしてるように言うなよ」
 呼び止めたの、そういうことするためだと思った。違うのか。
「モコ草手伝うよ、最近ちっとも連絡くれなかったし」
 たまにはさ、ヴァルから連絡くれてもいいよね。
 そう思うけど、なんかそれは口に出しちゃいけない気がして言葉を飲み込んだ。結局自分で食べようとふたつ買ったトルティーヤをひとつヴァルにあげて、二人で行儀悪く食べ歩きながらギデアスに向かう。
 こののんびりとしたサルタバルタの風景は結構好きだ。
 ゆっくりとアウトポストを目指して北上して、岩場をぐるりとまわった先がギデアス。ここも、サンドリアと同じく敵対勢力が自国の目と鼻の先にある感じなんだけど、サンドリアほど緊迫感がないのは同盟を結んでいるからかもしれない。
 ギデアスに近づくにつれて下っ端のヤグードの姿が増えてきた。
 ヴァナ・ディールワールドガイドにはギデアス寺院を中心としたヤグード族の宗教都市と書かれてる。実際入ってみても都市という感じはまったくしないけれど、所々に自分たちには理解し難い建造物というか置物というか、そういうのがあって異文化を感じさせた。

 


 

 

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