Kuftal's Tunnel/Catastrophe

 



 スキル上げの定番モンスターと言えば蟹。
 忍者が大好きな蟹。
 例に漏れず自分も大好きなんだけど、そんな蟹のなかでも誰しも1度はお世話になるだろうクフタル在住の蟹。略して一般的には「クフ蟹」。一部戦士の間ではなぜか「為」。
 今日はそんな蟹に手裏剣を投げ打ってたりする。
 格下の蟹相手に4割ほど外れてるけど気にしない。
 蟹つながりでクラブスシを食べたから、とかそんな理由絶対にヴァルには言えない。バカにされるし、ネタにされるし、間違いなく数ヶ月言われ続けるし。まあ、ある意味ネタなんだけどさ。
「なあ、当たってないんだけど」
「まだスキルが低いからね」
 準備していた回答をまるでモーグリのように淡々と返して手裏剣を構える。
「なんでいきなり投擲なんだよ」
 最初は一緒に殴っていたヴァルも飽きたのか、今では近くの段差に腰掛けていた。
「だって散華マスターしたもん」
 この日のために貯めておいた風魔手裏剣。
 せっかくだからかっこよく投げたいじゃん。
「なんだよ」
「いや、なんでも」
 あからさまに無駄な、と言いたそうなヴァルに手裏剣を構える。
「最近バトルばっかじゃん、たまにはもっと楽しいことしようぜ」
「もっと楽しいことって?」
 ヴァルの足元を狙ったはずなのに構えた手裏剣は全く明後日の場所に突き刺さった。その手裏剣を回収しながらヴァルは気まずそうに黙ってしまう。差し出された手裏剣を受け取りながら俯いたヴァルを下から覗き込んだ。
「なんなの」
「お前さ」
 ため息混じりにヴァルがそう口にしたところで、通路に陣取っていた自分達を横切っていく一団とすれ違う。見覚えあるなあなんて思ったのと、そのグループにいたヒュームが下品な笑い声をあげたのは同時だった。
「そいつのもしゃぶってあげちゃってんの?フヒヒ」
 その言葉が頭の中に入ってくるのには時間がかかった。
 固まってしまった自分の前を、後ろからガルカにひっぱたかれながら走っていくヒューム。やや遅れてあのだらしない下半身のエルヴァーンが無駄に爽やかにウィンクしながら駆け抜けていった。
 そんなオプションいらないし。
 大体人がいつも誰のでもしゃぶってるような言い方しないで欲しい。ハラスメントでしょ明らかに。
「おい、どういうことだ」
 一人ひっそりと憤慨していたらヴァルが怒ってた。
「どういうことだって聞いてるんだ」
 いわれのない中傷なんだよね。
 大体あの時初めてあんなことしたし、あんなディープな世界初めて見たし。
「ごめん。気にしないでって言っても難しいと思うけど、ちょっとトラブ、」
 ハラスメントだから、って言いかけたのを遮られるように肩を強く掴まれた。
「オレはまだしゃぶってもらってねえ」
「怒るところそこじゃないよね」
 口答えしたらそのまま近くの岩壁に押し付けられて上から唇が落とされる。
「だ、だめだって」
 ここは人通りもあるし、クフ蟹も見てる。


 

 

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