Mirror, Mirror/Catastrophe

 




 男同士でキスなんて、人生初の経験でした。
 しかも、ソフトなやつじゃなくて、ディープなやつ。

 キスしながら相手を脱がす、なんて常套手段というか、基本行為っていうか、よくやることなんだけど、相手が男となるとよくあることなのかどうか判断に迷う。よくあったからって、別に今がどうかなるわけじゃないんだけどさ。
 ゴルディヴァルは凄く怪我した肩を気にしてて、怪我した方の腕を伸ばしたらやんわりと戻されたりなんかした。
 だからどうだっていうかなんていうか。
 この異常な状況に頭がついてこないっていうか。
 下半身丸出しでゴルディヴァルの腰を跨いでる自分が信じられない。
 あぁ、騎乗位ですか。それとも対面座位って言った方がいいのか。いやまだ跨ってるだけなんですけど。
 ホント、どうしよう。
 跨った場所はちょうどゴルディヴァルの、アレ、がある場所で、当たってる感触的にカチーンコチーンな感じ。どうして、何に勃起したのって聞いてみたい衝動にも駆られるけれど、男って何が理由で勃起するか分からないときがあるんだよね。なんで今、みたいな。
 ゴルディヴァルはさっきからずっと自分の頬や唇を指で撫でている。
 ギリギリで躊躇ってる。そんな感じ。
 人の下半身丸裸にしておいて躊躇うとか。こっちもどうしていいか分からなくて、ただされるがままになってたってのに。
 やっとゴルディヴァルの手が伸ばされて、何もないつるぺたの胸を指が降りていく。シャツの裾から手が入り込んできて、いきなりおもいっきり握られた。
「うわっ」
 借りた彼のシャツは大きくて、ちょうど腰を隠すくらいまであったから、自分が半分ほど勃起してるなんて分からなかった。握られて初めて知って恥ずかしくて頭が沸騰しそうになる。
 なんで勃ってんの。
 そのまま擦られて身体が震えた。
 この間たまってたのにいけなくて、処理するような気分にならないまま今日に至る。外からの刺激は忘れていた性欲を思い出させるには十分すぎた。
「あっ、あ、あぁ」
 思わずこぼれた声を拾うように、ゴルディヴァルの身体が起こされて唇を塞ぐ。狭くなった身体と身体の間で大きな手が包み込んだまま離さない。
 なんでそんな音がするの。
 まるでぐちょぐちょに濡れているみたいにゴルディヴァルの手が上下するたびに酷く卑猥な音がした。
「ん、う」
 唇を塞がれたまま擦られて、溜まった熱は全部一点に集中して。
 苦しくて唇から逃れようと顎をあげてもそのまま彼の唇は追いかけてくる。追い詰められて思わずしがみついて指に力を入れたら、唇を離されてやんわりと注意されたけど、そんなのゴルディヴァルが悪いんだ。肩の痛みなんてどこかにいっちゃった。
「う、あぁ、あっ」
 唇が離れたことで今まで飲み込まれていた声が空気を震わせる。
「だめ、いっちゃう」
 自分で言って思うけど、何がダメなのかわからない。
 てかこれは、いきたいからいかせてくださいって事なの。分かれよ。もうちょっと、あ、あ。
 ね、もうちょっと。
 擦るゴルディヴァルの手に自分の手を重ねたところで、真っ白に燃え尽きた。
 この瞬間って本当に目の前が真っ白になる。一瞬意識飛んでるのかな、とも思う。
 突き抜けるような開放感があって、ちょっとした余韻があって、そして急激に冷めていく。ついでに身体の力も抜けていく。
 ゴルディヴァルの肩に額をつけて全身から力を抜いたところで、彼の手に出しちゃった事にようやく気付いた。
「ご、ごめん」
「いや、いいよ。大丈夫」
 近くにあった木綿布で手を拭いて、ゴルディヴァルは笑った。
「この間中途半端だっただろ」
 そのまま汚れたシーツや服まで綺麗に拭いてくれて、後始末までされてしまってどこか穴にあったら埋まりたい気分になった。他人に自分の出したものを拭いて貰うって凄く、申し訳ない感じ。当たり前か。なにげにこれも初体験だ。
「ちょっと、トイレ。眠れそうなら、寝てていいからな」
 ゆっくりと抱き上げられて、丁寧にベッドに寝かされた。
「え、てか」
 そっちはいいの。
 だって、勃起。
 自分だけとか。
「ダメだよ」
 トイレに立った中腰のゴルディヴァルの腕を咄嗟に掴んだ。
 掴んで、どうするっていうんだ。


 

 

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