Mirror, Mirror/Catastrophe

 




 サンドリアに戻ると、そのまま自宅じゃなくて彼のレンタルハウスに運ばれた。
 ベッドに下ろされると、口を開く前にタオルや、お湯、着替えが準備されていく。
 呆然と事の成り行きを見守っていると、ゴルディヴァルの手がマルクワルドコルに伸ばされた。数日前のことを思い出して思わず身構える。
 自分でも驚く程、気にしてる。傷をみるためだ、って分かってるのに。
 ばつが悪そうに一度手をひいたゴルディヴァルが、傷口みせて、と苦笑いしてみせた。
 頷いてゆっくりとマルクワルドコルを脱がされて、傷口が露わになる。思った以上に酷く抉られていて、傷口を見た瞬間痛みが増した気がした。肩から視線をそらして逆の脇腹をみれば、僅かに青くなっているだけでこっちは別段どうということはなさそうだった。
 額の傷、肩の傷。
 湯に浸したタオルでそっと洗われていく。
「額、痕は残らなさそうだ」
 出血は多かったけれど、傷そのものはたいしたことなさそうで安心する。
 とはいえ女の子じゃないから残っても気になるものでもないし、額に傷とかちょっと格好いいとか思ったのは内緒にしておく。
 額と肩に新しい布が巻かれて、多分ゴルディヴァルのものと思われるシャツを手渡された。
「え、別にいいよ。ぼく、自宅あるし帰るよ、って、さっきのドラゴン、鏡って」
 そう言ったらあぁ、ゴルディヴァルも思い出したように鞄をあさる。
 取りだした木綿布に包まれていたのは、紛れもない鏡。
 だけど、その鏡は割れていて、少なくともへんな魔力みたいなものは感じられなかった。手を伸ばしたら、やんわりと制止される。今は大丈夫でも、元々魔物に力を与えちゃうような魔鏡だったんだし当然か。ゴルディヴァルが大丈夫、って保障もないけど。
「つか、とっさに鏡割っちまったんだけどさ」
「一応、ルトに届けようか」
 多分、ルトの言ってた鏡がきっとこれの事なんだと思う。
 危険な類、とはこういう危険だったのかと今更納得した。
「まぁ、それがいいな。幸い近東のものに詳しそうだし」
 そう言いながら、ゴルディヴァルは彼自身が持っていた導きの鏡を取りだした。
 両手に持って、それを自分にみせるように差し出す。
「この鏡、装飾が導きの鏡によく似てるんだよな」
 言われなくても、似てる、というか、対称的、とでもいうのか。
 導きの鏡に対して、導かれる鏡とか、そんな感じ。でも魔物に力を与えちゃう以下略、ならそういうわけでもないんだろう。
「導きの鏡に兄弟がいるとか、そういう話はないの?」
「そういうのも知らねぇんだよなぁ」
 導きの鏡は危険だったりしないのかな、と思ったけど聞くのはやめておいた。
 導いてくれると思い込んでるだけで、実際はどんなものか、多分彼自身も分からないんだろうし、誰も分からない。だけど、その鏡のお陰で助かったわけだから少なくとも持ってると危険、ということはなさそうだ。
 よくある使い方次第、使う人次第ってやつかもしれない。
「明日、ジュノ行こ」
「そうだな」
 じゃあ、また明日、そう言いかけて立ち上がろうとするのを目敏くゴルディヴァルがとめた。
「帰らなくても、ここで休んでいけばいい。どうせ明日も一緒に行くんだ」
 いやでも、ベッドひとつだし。
「オレはソファで寝るから」
「いや悪いよ、ぼく部屋もどるよ」
「心配なんだよ」
 なんか、えっと、なんていうんだろう。
 このじわじわとひろがる温かさは。なんか、溶けてしまいそうになる。
 いやだけど、断れないっていう今までみたいのじゃなくて、いやじゃない。
 ふしぎな気持ち。
「わかった」

 

 

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