あの後は普通に酒買って帰って、客間の方で飲み明かした。
気がついたら朝でベッドの中にいたわけだが、隣でナチュラルにヴァンが寝ていて焦った。まあでも、酒飲んだらこんなもんだ、と納得させておく。床に散らばった酒瓶の数が、そのまま俺達のテンションを表していたように思う。
新年を祝う料理を楽しみ、夕方お礼を言って二人でバストゥークを出た。
こうやって俺の波瀾に満ちた年末年始は終わった。
飛空艇の上、俺は考える。
ヴァンはずっと不安を抱えている。俺の気持ちをちゃんと言葉や態度にして伝えてあげないと、その不安のやり場に困って身動きが取れなくなる。
ヴァンを不安にしている原因は、俺達が男同士だという事に他ならない。ああいうまっとうな家庭で育てば、今の俺達がどれだけ危うい綱の上に立っているか不安になるのも仕方がない。実際の所、俺達の関係を知っているのはカラナックとクェスだけだ。
LSにくらいは、ちゃんと言った方がいいのかもしれない。
カラナックは反対するだろうが。
隣で心地よい風を受けて、ヴァンが目を細めた。
「なぁ、指輪とか欲しいか?」
何気なくそう聞いたら、ヴァンは驚いた顔で俺を見た。
やっぱ女みたいで嫌かね、こういうの。
「な、何いきなり」
「いやなんとなく」
俺達みたいな冒険者は、そういう装飾品をずっと付けているわけにはいかない。その手の贈り物の装飾品は、戦闘をする事を考えて作られていない、というのが一番問題なのだが、実用を考えるとなんとなく贈り物として素っ気ない気がしないか?
冒険者の我が儘か、最近は実用とファッションを兼ねたのもいくつか出てはいるが、やっぱり飾りに重点を置いているせいか実用としてはイマイチなものが多い気がする。
そんな事はどうでもいいな。
なんとなく、本当になんとなく、ヴァンはこういう小さな事でも安心するのではないかと思っただけだ。
「実用的な指輪はもう持ってるだろうし、な」
そう言ってヴァンの方を向いたら、耳まで赤く染めたヴァンが目を逸らして俺の袖を掴んだ。
「ほしい」
なんていうか、煙草を落とした。
そういうおねだりは初めてです。
彼女に貢ぎまくる友人の気持ちが少しだけ分かった気がした。こんなおねだりされたら、どんなもんでも買ってやりたくなるな。いいものみた。涎でそうだ。出さないが。
「今はめてるの、とかダメ?」
そう言われて自分の指を見た。今はめているのはダイヤモンドがついている、実用重視だが比較的デザインもいいものだった。そのデザイン性が気に入って、今では常用していないまでも、なんとなく持ち歩いている。
「全知」という名前が気に入っているってのもあるし、当時必死になって購入したというほろ苦い思い出もあってなんとなく手放せなかった。そういうこの指輪にまつわる歴史をヴァンは知っている。そんなものでいいのか、って最初は思ったけれど、もしかして俺が長く使ったからかな、なんて欲しがった理由を俺に都合良く考えてみた。
「それ、最近使ってないの知ってるんだけど、駄目なら別ので」
「いや、いいよ」
ヴァンの手を取って、俺の指から指輪を外したところで、サイズの問題に気付く。
「あぁ、だめかも」
「ほんとだ」
俺の指輪はヴァンの指には大きすぎた。中指ですらすり抜ける。少しだけがっかりしたヴァン。
「ジュノ着いたら、下層の宝石屋でもいってサイズあわせて貰うか」
そんなことで、本当に嬉しそうに笑うから。
もっと早く気付いてやればよかったかな、と思う。
俺の可愛いヴァンは、手を繋いでやると喜ぶし、好きだよと囁けば真っ赤になる。抱きしめれば安心したように笑う。
少しずつ不安を取り除いていければいい。俺だって不安になることあるんだから。
今はまだ無理でも、一緒なら。
とりあえずは、ジュノで指輪なおしたら下層のあの店でケーキでも買って家に行こう。
今は甘いものが食べたい。生クリームだ生クリーム。俺ロランベリーのショートケーキ。
「ケーキ買って帰ろうな」
「俺オレンジクーヘン!」
そう言って、ヴァンは屈託なく笑った。
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