「鎧脱げば良かった」
上下に身体を揺らすたびに金属の擦れる音がする。
それはヴァンの走る音に似ていて、耳に心地良い。だが比較的軽い鎖帷子とはいえ、それは立派な金属鎧で、今まで何度となくヴァンの命を守ってきたものだ。
「当たって痛くない?」
「大丈夫だけど、今からでも遅くない」
アニスが鎧の留め金を外してやると、肩当てが音を立ててヴァンの腕を伝った。
「人、来るかも」
「今更だな」
アニスは鎧を身体に固定しているベルトを外していく。ヴァンはされるがままにアニスの上で腰を揺らし続けた。
両腕をあげさせて鎖帷子を脱がすと、ヴァンは開放感に肩を震わせる。
「裸に、レギンスだけって、エロイ」
胸元に唇を寄せてアニスが囁いた。
ヴァンの腹には二つの古い傷がある。それはセックスの最中やけに赤みを帯びてアニスは時折不安になるのだ。そっとその傷に指を這わすと、ヴァンは小さく息を吐く。
「消えないな、これ」
「大分、薄くなったと思うけど、体温上がると目立つね」
傷のひとつは、ダボイ奥の修道窟に初めて狂王バックゴデックが姿を現したときのものだ。やつの鋭い爪がヴァンの柔らかな腹を引き裂き、それと同時にヴァンの斧がやつの首にめり込んだ。
今でも鮮明に思い出せるあの瞬間。
当時はやたら無茶をしていて、その結果がそれだ。
あの時からうちは変わった、と思う。戦略戦術を重視し、コンディションを整えて無理はしなくなった。
「若かりし頃の苦い思い出って事で」
そう言って笑うヴァン。もう一つの凄惨な疵痕について、ヴァンは何も言わないし語らない。カラナックにそれとなく聞いてみても、言葉を濁された。その疵痕に指を乗せる。ヴァンは黙ったままだ。
肩に掛けていたエラントを、ヴァンに着せるようにまわして背中を支える。
「ごめん、ちょっと限界」
「ウン」
ゆっくりとヴァンの身体を地面に横たえて、大きく足を開かせた。
腰だけが浮いてヴァンは甘ったるい声を上げる。自分で握っていた前に、その手ごと包み込むようにして手を添えると、ヴァンは刺激をねだるかのように腰を揺らした。
エラントを敷いているとはいえ、あまり乱暴に揺すりたてず、中をかき回すように腰を突き出す。その緩い刺激にヴァンの手が口元を覆った。
息が上がっていく。口元の手を掴んで口付けると、さらに深く呑み込まれた気がした。
ヴァンの喉が反る。小刻みに震える肩。限界が近い。
「外に、出すから、も、先いって」
そうアニスが言うと、ヴァンは両腕を首に回してアニスの身体を引き寄せた。
「中で、いい」
「ちょ…っ!」
「ア」
大きくヴァンの身体が跳ねたのと、アニスが小さく震えたのはほぼ同時で。
身体の力を抜いたヴァンが急に笑い始めて、アニスも肩の力を抜いた。
「こんなとこでなにやってんだか」
「ほんとに」
額の汗を拭ってヴァンが声を上げて笑う。
「あーチョコ跡形もない」
指先でチョコレートの包装紙を引き寄せてヴァンががっかりしたように言った。そもそもチョコレート持ってゼオルム火山に来るという事自体が無茶だ。しかしヴァンがゼオルム火山に来る原因の一端はアニスにある。
「俺からもあるよ、ヴァレンティオン」
慰めるように軽く口付けするともっと、とねだられる。
鎧をもう一度着せるのも面倒で、そのままヴァンにエラントを着せた。まるで子供が父親の寝間着を着せられたようなサイズの違いについ笑みを零すと、意味が分かったのか軽く鼻をつままれる。
「あ、肝心なこと忘れてた」
「ん?」
ヴァンはアニスの前に座るとじっと見つめた。向かい合わせで、僅かにヴァンが見上げてくる。
「チョコ、溶けちゃったけど」
「好きです」
そう言うと、ヴァンはそっとアニスと唇を重ねた。
時節が巡れば、また花が開くように。愛する人に気持ちを伝える大切な日。
今日はヴァレンティオン・デー。
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