「はい、これ」
もの凄い笑顔で渡されたものは、カーボンロッド。
俺はそんなものよりお前の笑顔が欲しい、とか馬鹿なこと思いながら手に取った。
釣りを嗜まない俺でも分かる。オーソドックスで、もし折れても修理が簡単なものだ。ヴァンは色々考えた結果、俺にこの竿を選んだのだろう。正直、高級ではないが、今まで自分が持ったものを考えると激しく高級な竿を持つのはこれが初めてだ。大分昔にゴブリンの釣り師が持っていたヤナギの釣竿で数度釣りをしたこともあるが、すぐに飽きてやめたなんて言えそうにない。
「つまらなかったら言ってよ、釣りは人それぞれ嗜好があるからさ」
そう言って手のひらにのせたのは、さびき針。
生の餌にしなかったのは、あの臭いや感触を嫌だと思ったからだろうか。俺にだって分かる、初心者にさびき針なんか持たせても、すぐに食いちぎられてなくしてしまうだろうに。
どうでもいいことだがこんな俺でも鱆号作戦は完遂した。竿すら持って行かずクェスに罵られたが。
ヴァンが行くよ、と歩き始める。背中を見ていて分かる。楽しそうだ。
だから俺は貰った竿を握りしめてヴァンの後を追う。
ここはブンカール浦。
少し前に、俺の我が儘でヴァンを連れてきた過去世界だ。
そのとき俺は焦っていて、ヴァンのことをちゃんと考えてなかった。それでもヴァンは俺についてきてくれて、そのお陰で俺は今こうして一緒に肩を並べて居ることが出来ているし、色々な意味で救われた。
過去の俺も、今の俺も。
少し迷ったものの、こうして落ち着いた今。またあの禁断の口を使ってこの世界に釣りにでも行かないか、と誘ったのは結構勇気がいったのは分かってくれるだろうか。
でもヴァンは笑って、俺も誘おうと思ってた、って言ってくれたから。
こうして俺はもう一度過去世界に足を踏み入れたわけだ。
現金だとか、お前はヴァンに誘われるなら奈落の底でもいいのだろうとかもう聞き飽きて耳が痛い。例え進む先に待ち受けるのが暗雲立ちこめる闇だったとしても、俺はヴァンと一緒ならそれでいい。決して破滅思考ではないぞ。そこから必ず二人で生きて帰ると信じてるから、だ。
ヴァンと一緒なら、俺にとってそこは闇ではない。むしろ、闇などあってはならないのだ。
ヴァンはゆっくりと景色を楽しみながら歩く。俺はその数歩後ろをついて行く。
肩に掛けた竿は見たこともない竿だ。少し大きめの荷物も、きっと色々と道具が入っているのだろう。
そうこうしているうちに、ヴァンが眼下にバストア海を見下ろす橋で止まった。
「ここにしよ」
周囲に危険はなさそうで、ヴァンは注意深くあたりを見渡すと鎧の肩当てを外した。
「肩、邪魔だからねー」
少しだけ肌寒そうで、なんとなく着ているエラントを脱ごうとしたら笑って止められる。
「大丈夫だよ」
簡単に準備して、ヴァンはシンキングミノーという疑似餌を取り付けた。一緒に俺のカーボンロッドにもサビキ針を付けてくれる。
ヴァンは嬉しそうに大きく竿を振って糸を垂らした。俺も見よう見まねで岸壁に糸を垂らす。
楽しそうな横顔。俺も嬉しい。
何分たっただろう。いや、何時間か。
でもあれから数分もたってない気もする。
俺の竿はぴくりとも動かない。隣のヴァンにはもう既に2匹のバストアブリーム。
「掛からない」
そうぽつりと漏らすと、ヴァンは微かに笑った。
「最初はそんなもんだけども」
自分の竿が動いてないことを確認して、ヴァンはじっと俺を見た。
「つまんない?」
「いーや、お前が楽しそうでそれが嬉しい」
そう言ってやると、ヴァンは本当に嬉しそうに顔を緩めてみせる。嗚呼、本当に釣りが好きなんだなあ、と、無機物に嫉妬してしまいそうになった。俺のカーボンロッドは相変わらず動かない。
本当はカーボンロッドなんかより、お前の横顔見てたいよ。そんな気持ちなんか知らずにヴァンはまた手元の竿を見つめながら楽しそうに話す。
「掛かったときにね、手に残る重みとか振動で獲物が分かったりするんだ。でもたまにこれはでかい、って必死になって釣り上げたらレギンスだったりとかすんの」
ぴくりと動いた竿に反応して、ヴァンはあっさりと3匹目のバストアブリームを手にした。
「汽船とかで船釣りもいいよ、ギルド桟橋もなかなか」
そこまで言って、ヴァンはやっぱり少しだけ寂しそうな顔をした。
「付き合わせてごめんね」
こんな顔させるくらいなら、釣りの勉強くらいしておけばよかったと後悔した。
「釣りに誘ったのは俺だぞ」
「だって」
横に並んで座っていた距離を詰める。
頬を寄せて、いつものように額に口付けるとヴァンが目を閉じた。
あぁ、抱きしめたい。魚よりお前が食べたい。骨の髄まで貪り尽くしたい。
俺はいつまでたっても掛からないカーボンロッドを隣に置くと、ヴァンの背中に手を回した。少しだけ体勢をずらして背中から抱きしめると、ヴァンは驚いて肩を竦めた。
「ごめんな、俺食らいついてくるのを待ってるの性に合わないみたい」
むき出しの首筋に文字通り噛みつくと、ヴァンの背中が大きく跳ねた。
「ちょ、アニス」
「ちゃんと竿握ってろよ」
緩めた鎧の留め金を外して手をアンダーシャツの下に潜り込ませる。胸に抱え込む小さな身体から、ヴァンの鼓動がダイレクトに響いた。
「俺はこっちを握る」
「アニッ、この、オヤジめ」
「否定しない」
小さな耳に噛みついて、手は胸の突起と、服の上からでも分かる勃起したペニスに。
「ア」
下衣の上から撫でるように刺激してやるとヴァンの口から熱い吐息が漏れる。竿を握った手が震えて、落とすまいと指に力が込められた。
「や、ダメ、こんなとこで」
「誰も来ない」
振り返ったヴァンの唇を無理矢理塞ぐと、すぐに唇が開いて舌が絡む。
は、と吐かれた短い息に興奮した。やべぇ、突っ込みたい。
ヴァンに悪戯して遊ぶつもりが我慢できそうにない。佩楯を少しだけ脱がして窮屈そうだったペニスを取り出すと、さすがにヴァンも観念した様子で頭を俺の肩に押しつけてきた。だけどそれでも握った竿は離さない。
「あ、ぁ」
幸い魚は掛かってなさそうだが。
「竿落とすなよ」
「うん、う、ん…っ」
硬く屹立したペニスを擦ってやる。手のひらに我慢できなかった汁が絡みついて、打ち寄せる波すらない静かな岸壁にいやらしい音を響かせた。身体を少しだけ倒し、足を拡げさす。水音を立てる指をおろした佩楯の間から、ゆっくりとぬるつく指を尻に沈めた。
「ン、あっ」
持っていた竿を握りしめてヴァンが呻く。
あっさりと呑み込んだ指を横からもう1本増やし、わざと音を立てて中をかき回した。ヴァンの頬を、溢れた涙が伝っていく。いつものことだが、泣かれるとちょっとした罪悪感が身を擡げる。短く苦しそうに喘ぐ声が掠れ、飲み込めない唾液が唇を伝った。
「ヴァン、いれていい?」
我慢できない。本当なら、こっちに向かせて抱きしめたかったが、一応人目を気にしてみる。こんな状況で人目も糞もないのだが、後ろから見ればヴァンの小柄な身体は俺の身体に隠れてしまうだろう。
囁くと、ヴァンは熱っぽい瞳を潤ませて頷いた。
佩楯だけ脱がして、後ろから俺の腰に座らせるようにヴァンを抱きしめた。
「ンあぁぁ」
ゆっくりとヴァンの中をこじ開けて、入り込む。
まるで侵入者。ヴァンはまた涙をこぼしながら必死で声を押し殺して受け入れる。やっぱりこみ上げる罪悪感。
でも全部入れたら、そんな罪悪感も気持ちよさの海に飲まれて霧散してしまうのだ。可愛いヴァンの快楽に喘ぐ声が耳から俺を刺激し続ける。
あぁ、止まらない。気持ちいい。
「どうしよう、ヴァン。すげぇ気持ちいい」
「おれもーとまんな…」
そう言って自分から腰を振るヴァン。
ちょ、待って。あ、ダメ。
て、か、俺早い。超早い。頑張れ俺、堪えろ俺。
クェスと禿獣思い出せ。この際赤エルでもいい。誰でもいい。アマルテアが一匹、アマルテアが二匹…!
そんな俺の気持ちを知ってか、ヴァンは顔だけこっちに向けると口付けをねだってきた。その顔が、紅潮した頬が。とろんとした瞳でねだられて。嗚呼、ダメだってそんな、もたねぇっての。
頭の芯がぼうっとする中、息を飲んで小さく身体を震わせたヴァン。そして直後、これでもかと締め付けられて俺もまたあっけなく果てた。
荒い息をつきながら、俺のをまだ中に入れたままでヴァンが何かに気づいたように竿をたぐり寄せた。
「あぁ、俺のシンキングミノー」
いつの間にか魚に持って行かれていたらしい。
ぺたん、と身体を折り曲げて息を整えるヴァン。意外にも結構身体が柔らかい。そんな小さな背中を撫でながら、俺は愚かな提案を考えていた。
「なぁ、ヴァン」
「ん?」
顔だけこちらに向けたヴァンがじっと俺を見つめる。
「抜きたくない」
「言うと思った!」
逃げていく腰を掴んで引き寄せると、艶っぽい声が漏れる。
「人が来たらどうすんだ、ン」
「ちょっと窪んでるから見えないって」
「見えるって!バカ、ちょ、アニス!」
ヴァンの身体を仰向けにして、俺は喚くその口を唇で塞いだ。
そして、再びめくるめく快楽の世界へ!
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