無理矢理エラッタに約束させられて、ついうん、って頷いてしまった。
それと同時にみんなが戻ってきて、お帰りーとエラッタが振り向いて笑った。
「ただいま、エラッタ。メンサーエペ出たぞ、お前にやるー」
アルは背負った細長いレイピアを無造作にエラッタに放り投げた。
もっと渡し方あるだろ、と思ったけど、これがアルらしさかな。
「え、いいの?」
「その代りお前が出した龍の爪くれ」
「本当に?」
「いいって言ってんだろ、お前欲しがってただろ。それに俺は龍の爪の方が欲しいんだよ」
「そんなこと言って、エペ出た時うおおおでたーって叫んだの誰だよ」
「超喜んでたニャー」
エラッタは本当にニコニコしながら、ありがとうって言って先ほど出た龍の爪をアルに差し出した。
ついでに一緒にでたイカロスウィングもつけて。
この二人はほほえましい。見てても可愛いし、ほのぼのとする。
いいな、あたし何してるんだろう。
「じゃあ次はシィルさんの番かな。メンバー少し入れ替えようか」
アルがてきぱきと指示をだしてメンバーを入れ替えて行く。
「じゃあ連続3回目になるからランと俺が留守番、エラッタと、ファニーが次は入ろう。ポートンとシィルさんは悪いけど外せないから頼むわ」
「了解です。じゃあ少し休憩ですね」
全員でナバゴ処刑場前で休憩、凄い光景だ。
「わたし、余った素材でクッキー作ってきたんです。休憩なら少しみなさんどうですか?」
そう言って鞄から可愛らしい包みを取り出すシィルさん。
あからさまに悦ぶのはシオン。あたしも料理くらい練習しようかなあ。
「お、甘いものー」
「おお、丁度糖分が欲しかったのです、いただきますね」
「俺もちょーだい」
「うちもいただきますニャ」
アルやポートン、レイアはともかくヴァンまでクッキーに手を伸ばしている。
ヴァン珍しい。あんまり甘いもの食べなかったのに。
「ヴァンは色々やりすぎなんだ」
「ちょ、何言うんだこの糞タル」
「ナニをやりすぎニャ?」
ニヤニヤしながらアルとレイアがからかう。
その言葉で、全てが理解できた、気がする。
まったくストレートだなー。
ヴァンは、今付き合ってる、と言うのかな、よく分からないけど、恋人がいる。
ちょっと普通と違うのはヴァンの恋人は、ヴァンと同じ性別の人だってこと。
恋人と友人の違いって何だろう、心の距離かな。
あたしにもよく分からない。でも、ヴァンには今、彼を支えてくれる人がいる。共に時間を歩む人がいる。それは凄い事で、凄く羨ましい、と思う。
初めてリンクシェルでヴァンの口からそう聞いたとき、やっぱり驚いた。みんなも驚いたと思う。でも誰一人として、否定することはなかった。ちょっとだけ、堅物のヴァンがそういう事を許容したのに驚いたのは、内緒にしておく。
「ファニーさんもいかがですか?」
気がついたらシィルさんがクッキーを持ってあたしの前にいた。
そう言って微笑まれると超弱い。
「うん、食べる。いただきますー」
似合わないの分かってるけどあたしは可愛いものがすき。
自分では作れないけど、お菓子も大好き。
貰ったクッキーはほんのり甘くて、とても美味しかった。
それが彼女の全てを表している、そんな気がして、正直とても惨めな気持ちになった。
あたし馬鹿だ。嫉妬してるんだ。
壁際でヴァンが柔らかな笑顔で笑う。
ナックも穏やかな顔で頷いて。微笑むエラッタ、ルルゥがお腹を抱えて笑った。
みんなの笑顔が、やけに遠く感じた。
馬鹿だ。あたしの良くないところは考えすぎなとこだ。
結局、あたしは微妙な気持ちのまま、リンクシェルのイベントを終えた。
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