[ここでキスして。/close to you]
突然凍るような寒さの中に放り出されたアニスは思わず呻いた。
ゲートクリスタルの鈍い音が耳に届く。
目を開ければアニスの膝と膝の間にヴァンが居る。一面の白い世界で、ただ一人、そこだけ鮮明な黒い瞳。
大胆な行動をした割にじっと見つめる瞳が、不意に潤んだ。
ヴァンの頬に手を伸ばし掛けたとき、音を立てて端末が鳴る。カラナックからのテルだ。左手で端末を操作しながら、右手でヴァンの頭を引き寄せた。
『おい、後で顔だすんだろうな』
「ああ、後でかなら」
ず。
言葉はヴァンが重ねた唇で止まった。
端末に、ちゅ、という水音が響く。
思考が止まった。
唇を重ねたまま、アニスが左手に握った端末をヴァンの手がゆっくりと顔の側から離していく。重ねられては離される啄むような口付け、柔らかな唇の感触だけがやけにリアルだ。
冒険者が踏み固めた雪の上で、ヴァンはアニスの指に自分の指を絡めた。
「やだ、行かないで」
少しだけ離された唇。睫にたまった涙が頬を伝った。
どうしようもなく愛しくて、恐る恐るアニスはその涙に口付ける。触れてもいいのかと躊躇うその仕草は随分ぎこちなくヴァンの目に映っただろう。唇が触れた頬は、冷たい。
絡み合った指先も冷たいのに、どうしようもなく唇だけが熱を持ったように熱い。
鼻に、唇に、顎に。ヴァンの唇が降ってくる。
「アニス」
名前を呼ばれる。それだけでじん、と身体の奥が熱くなる。
我慢していた全てが溢れていく。
「キスして」
瞼に口付けられて囁かれる言葉は馬鹿みたいに興奮した。理性などあっさりと奪われる。
言われるがままにした二度目のキスも触れるだけの軽いキス。
「もっと?」
喋れば唇と唇が軽く触れあう。そんな距離でアニスはヴァンに問いかけた。
「ここで」
───キスして。
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