───通風のモグハウス。
年代もののアンティークで飾られているもののそれは厭らしくなく、むしろ通風らしい。
ものは多くなく、小奇麗に片付けられており、部屋の隅に重ねられたコッファーには努力の跡が見て取れた。
死人:意外に綺麗にしているのは猫狩が来るからですかね。
通風:俺は綺麗好きよ?wwwwwwwww
そう言って差し出したグラス。
そのグラスも───センスがいい。
中にはヤグード特製のチェリー酒が注がれていた。
少し甘くて飲みやすい、自分の知っている通風のイメージではないから合わせてくれたというところか。
通風:で、樽ナがなんだって?wwwwwwwww
死人:さhkjdgj;
通風:ふくなよwwwwwwきたねぇなwwwwwwwwww
死人:いやすみませんというよりなんで樽ナがでてくるんですがそれよりどうしてわたしはこk
通風:落ち着けよwwwwwwwwwwwwww
とりあえず通風の綺麗に整えられたベッドに腰掛ける。
サイドボードに置かれた籐のバスケットには今は何も入っていない。
通風:どうせ樽ナの話だろーがwwwww聞いてやんぜ?wwwwwwwwwwwww
通風は自分と同じエルヴァーンでも違う。
自由奔放で、エルヴァーンの持つ他人を見下したような、そう、自分のように驕慢な部分がない。
いや別の意味で気位は高いが、それは嫌味ではなく。
むしろ気障という言葉が似合い、そしてなんだかんだ言いながら誰にでも分け隔てなく優しい。
死人:あなたは私とは違う。
通風:あたんめーだろwwwwwwww
死人:あなたのように素直に彼女に接することが出来ない。
通風:俺が素直にみえんのかてめーはwwwwwwwwwwwwww
死人:口では色々言っているけれども、あなたは結局のところ猫狩に優しいじゃないですか。
死人:だけど私は。
死人:私はうまく言葉に出来ない…いつも彼女を傷つけることばかり口に出る。
死人:彼女に嫌われるような事ばかり言ってしまう。
通風:あほかwwwwwwwwwwwお前の毒舌は今に始まったことじゃないだろwwwww
通風:しかしそんだけニブチンだと樽ナも大変だなwwwwwwwwwwwwwwwwww
いいか、と言って通風は私に近づいた。
ベッドに片膝をつけ、私を覗き込むようにして見つめる。
通風:言葉ってのはなwwwww女を安心させるためにあるんだwwwwwwwwwwwwww
通風:気持ちを伝えるだけならwwwww言葉じゃなくていいwwwwwwwwwwwwwww
死人:相変わらずあなたという人はそういう気障な台詞があっさりと口にだせるのですね。
通風:うっせえwwwwなんとでもいえwwwwwwwwww
いや、本当は羨ましいのです、そう心の中で思う。
私にそんな言葉の半分でも樽ナに伝えられることができれば、あんな顔をさせることもないのに。
通風:こうやってだな…wwwwww
ゆっくりと私に近づく通風。
通風:抱いてやりゃあいいんだよwwwwwwwwwwwwwwwww
突然伸ばされた通風の手が私の腕を掴み、ベッドに組み敷かれる形になったのは一瞬の出来事だった。
死人:ちょっとあなた、いきなりなにをするのですか。
掴まれた腕に力が込められ、私は思わず持っていたグラスを床に落とした。
古い傷が熱を持って痛みを全身に伝える。
死人:いっつ…!
通風:おまえほせぇなあwwwwwwwwww
死人:だれが小さくて短くて皮かb
通風:落ち着けwwwww誰もそこまで言ってないwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
死人:コホン。そうでした、すみません。取り乱しました。だからどいていただけませんかね。
通風は少しだけ意地悪く笑って見せる。
相変わらず私の腕を強く握っていて、そのせいで私は通風を強く押しのけることが出来ないでいた。
通風:お前潔癖すぎなんだよwwwwwwww
死人:え?
通風は握っていた腕を自分の目の前まで持ってくると、私の指に軽く口付けた。
死人:なななんさあななななななななにをするんですかあなたは!!
通風:猫がお前の指をさ、細くて長くて綺麗な指だっていうんだよwwwwwwwwwwwwww
死人:そそそれはありがとうございますとお伝えくださいだからそのちょっとそれまってやめてまちなs
指を、舐められる。
ざらっとした暖かな舌の感触。
慌てて引っ込めようとする手を通風は離さない。
エロティズム。
通風の舌が私の指に沿って動く。
普段手袋ばかりしている自分の指は通風の健康的な肌の色に比べ幾分か白い。
対照的な舌の赤さが私の脳を麻痺させていくのが分かった。
通風:おいおい指舐めくらいで何テンパってんだよwwwwwwwwww
頬が熱い。紅潮しているのが自分でも分かった。
死人:放してください、帰ります、今日は帰りますから、どいてください。
通風:お前女抱いたことあんの?wwwwwwwwwwwwwwwww
固まったのは数秒、だと思う。
でも多分、その間私はきっと無様な顔をしていたに違いない。
死人:あ、あなたには関係ないでしょう、放してください。GM呼びますよ?
通風:呼んでもこねえよwwwwwwwwwwwwwwww
通風の大きな手が私の帽子と頬の間に触れた。
通風の目に映った自分がまぬけにも口を開けたまま自分を見ていた。
その手から、逃れられないでいた。
もう腕は、掴まれていなかったというのに───
通風:逃げんなよwwwwwこうやって優しく扱うんだぜwwwwwwwwwwwww
死人:ちょっまってくださいあなたには猫狩というものがあるでしょう!
…そして私には樽ナが。
いや、それ以前に。
死人:というか私とあなたは男同士であってってちょ、なにしてるんですか。
死人:あ、ちょっと待ちなさい、あなたって…
樽ナよりかたくて、薄い、力強い唇の感触に戸惑いを隠せなかった。
無理矢理引き離し眼前の通風に怒りの言葉を投げかける。
死人:っは、あなたは何を考えているんですか、酔ってますか?私は猫狩ではありませんよ!
通風:大丈夫wwwwww俺どっちもいけるクチwwwwwwwwwwwwww
死人:なんですか、何が?
通風:wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
通風:ま、俺のベッドに腰掛けたってことはOKってこったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
後頭部にまわされた手は強く。
シーフに似つかわしくなく鍛えられたその腕は、遠い昔に前衛職から離れてしまった私にはどうすることも出来なかった。
私は非力だ───
ジュストコールの襟を外す手馴れた指先が、そのまま鎖骨を撫でていく。
酔っているのだ、そう、お互いに酔っているのだ。
通風の唇が額、目、鼻と降りる。
その間にジュストコールの裾から通風の手が私の下半身に伸びた。
死人:だめですちょっといやですってダメだと言ってるでしょう、聞こえてますかちょっと!
通風:気にスンナwwwwwwwwwwww
死人:いやです気にします、ってちょっとあわわわわまちなさいやめてやめっ
通風:wwwwwwwwwwwwwwwwww
通風:wwwwwwwwwwwwwwwwww
通風:wwwwwwwwwwwwwwwwww
死人:そんなに笑わないでくださいよ!!1!!!
通風:わりwwwwwwま、お前小柄だからねwwwwwwwwwwwwwww
そう言って通風は私の頭をまるで子供をあやすかのようにして、軽く、叩いた。
その瞬間私は飛び上がる。
死人:ちょちょちょちょっっっ!1!ぬぬ!!1
通風:なんだwww他人に触られるの初めてか?wwwwwwwwwwww
通風:まあまあこの俺に任せとけwwwwwwwwwwww
通風の指がまるでなぞるように動く。
それは着かず離れず的確に私を弄んだ。
やめてと喉まで出掛かった言葉を私は無意識のうちに飲み込んで───
───…。
───通風の手の中に零れたそれは、私のものだ。
呆然とそれを見つめる私に通風はその手を僅かに上げてみせる。
通風の手を伝って私の上に零れるそれを見ながら、私はどこかで理性が失われていくのを感じた。
通風:おいwww大丈夫かwwwwwwww
死人:(; д ) ゚ ゚
通風:やりすぎたかwwwwwwww
通風:…据えコッファー開けぬはシーフの恥ってなwwwww頂きますwwwwwwwwwww
火照った身体に冷たい通風の手が置かれ、その感触に思わず声を上げる。
まるで自分のものではないような声に驚きつつも、私は鈍痛をいまだ抱える利き腕を天井に向けた。
痛みで唐突に思い出す。
だけど痛いのはきっと腕じゃない。
通風:なんだよwwwwwwwww
死人:私は…この腕をなくしてでも助けたい人がいたんですよ…。
死人:でも助けられなかった…。私はまた失うのが怖いんです。
死人:こんな私に彼女を愛す資格があるのでしょうかといつも思うのです。
僅かに眉をひそめた通風に私は自嘲気味に微笑んでみせた。
唇に通風の指のぬくもりを感じ、半ば強制的に顎を持ち上げられると驚くほど優しい口付けがされる。
通風:だからお前は潔癖なんだってwwwwwwwwww
死人:うるさいですよ、酔ってるんです。ちょっとポエマーになってみたかっただけですから気にしないでください。
死人:というよりね、酔ってなければなんで私があなたにこんなことを言うというのですか。
死人:そもそもこの私があなたの部屋に来たのが間違いだったのでs(ry
通風:黙ってろwwwwwwww
死人:なんですかその命令口調は、誰にむかってはn
通風:泣きながら怒るなwwwwwwwwwwwwwww
慌てて頬に触れた指に涙が当たった。
通風:いいんだよwwwww誰が誰好きになろうがよwwwwwwwww
通風:愛おしいってのはなwwwww「いと、惜しい」という意味もあんだよwwwwwwww
通風:離したくないくらい好きならwwwwwwそれでいいだろwwwwwwwwwww
通風:それ以上の理由がいるか?wwwwwwwwwwwwwwwwww
そういうとさすがに恥ずかしくなったのか、通風は私の顔をシーツで拭き始めた。
通風:あーもう、綺麗な顔を涙でぐしゃぐしゃにしやがって。
通風:てめぇの歌は、てめぇで歌わなきゃいつまでたっても完成しねぇだろが。
吟遊詩人のくせによ、と最後は呟き、通風はシーツで手を拭くとベッドにごろりと私に背を向けて横になる。
通風:萎えたwwwwwwwシーツ洗濯籠によろwwwwwシャワー向こうwwwwww寝るwwww
面倒臭そうに手で場所を指示する通風。
死人:わっ、私だけがそんな…なんて…フェアじゃないじゃないですか…。
通風:無理すんなボケwwwwwwwww【かえれ】wwwwwwww
通風がこちらを振り向くと同時に丸めたシーツを投げつけられ、私はその場によろめいた。
気だるそうに起き上がると通風は私の前を横切り、部屋のドアに手をかける。
通風:どうぞこちらへ死人様wwwwwwwww
そこを出ればジュノだ。
私は促されるままにドアへと足を進めた。
ドアの前で止まり、通風がノブを回すのを待つ。
頭ひとつ分近く違う通風の呼吸が耳元で聞こえた。
───無言の時。
通風と私の身体は靭皮紙一枚分の距離しかなかった。
ノブにかけられた手が動く前に、私は通風を振り返る。
多分、それが合図、だった。
噛み付くような口付けに思わず目を閉じた。
体がドアに押し付けられ、太ももの間に通風の膝が割って入る。
───お互い言葉はない。
貪りあうかのように唇を求め合う深い、深いキス。
私の頬を掴む通風の手は熱く、先ほどのような冷たさは微塵も感じられなかった。
どれほどそうしていただろうか。
唇が離れ、私の視線が床に落ちると同時にノブが回される。
開けられるドア、真夜中にも関わらず必死なシャウトが聞こえる下層。
私は振り返ろうとして、途中でそれをやめた。
言葉は要らない。
そのまま私は下層へと一歩踏み出す。
背中に通風の視線を感じつつ、おやすみ代わりに右手を少しだけ上げた。
微かに布の擦れる音が耳に届き、そしてドアが閉められる。
後に残るは───
唇に残るほのかなぬくもり。
END
参考文献:未完の歌
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