毎年この時期がくるたびに思い出す。
ケーキも豪勢な食事もない、飾り付けたツリーさえない小さな修道院で、血の繋がらない沢山の家族と共に寒さを凌いだことを。
華やかな路地、星芒祭ムード一色の音楽と町並み。
すれ違う人々の笑顔と満ち足りた表情。
子供達にプレゼントを。
俺たちのところには来なかったスマイルブリンガー。
こんなに人々は幸せそうなのに、どうして俺はこんなにも泣きたくなるのか。
今年もまた、星芒祭はそんな少しだけ切ない記憶を連れてやってくる。
「レヴィオ」
呼びかけられて振り返る。
そこにはスマイルブリンガーと同じように、真っ赤なケープを羽織ったカデンツァが立っていた。手には小さな箱と、袋詰めにされたお菓子。箱には、折りたたまれたメッセージカードが添えられていた。
「あ、あとこれ」
呆然とした俺に無理矢理持っていたものを押しつけるとカデンツァはポケットから小さな紙切れを取り出す。
星芒祭プレゼント引換券、と読みにくい字で書かれたそれ。
「星芒祭、おめでとう」
ぎこちなく、普段は堅い表情がほんのりと和らいだのを感じた。
あぁ、カデンツァは楽しんでいるのか。
「俺は子供じゃないぞ」
そう言ったのを聞いているのかいないのか、カデンツァはしゃがみ込むと今度は地面に小さな箱を置いた。真ん中を少し押し込んで立ち上がり、一歩下がる。その瞬間、ぽん、と音がして箱が開き、中から小さなトナカイが飛び出したかと思えば、スマイルブリンガーを引いて降りてくる。
それを見ていたら、次はキラキラと光る粒が降り注いだ。
まるで雪。
鈴の音が鳴るジュノで、キラキラと雪が舞った。
次々とからくりじみた花火を打ち上げるカデンツァ。普段見たこともないような花火まで買ったのか、貰ったのか、俺の周りだけ幻想世界だった。
こんな世界、見たことがなかった。
こんな星芒祭なんか知らない。
キラキラと光り輝く手でカデンツァが俺の手を握った。手のひらに掴まされたのは小さな花火。
恐る恐るその花火を使うと、俺の手も同じようにキラキラと光った。
「星芒祭、おめでとう」
もう一度そう言われて、はっとカデンツァを見下ろせば、カデンツァはゆっくりと本当に少しだけ、笑った。
そこで俺は気付く。
カデンツァもまた、6年間あの大聖堂で華やかなサンドリア城下町を見下ろしていたのだと。噴水を中心に広がるサンドリア王国式星芒祭ツリー。その下ではスマイルブリンガーがメッセージカードと子供達にプレゼントを配る。そんな光景を、カデンツァもまたずっと見てきたのだ。
外が星芒祭で盛り上がっているときに、大聖堂ではどうだったか。
何一つ変わらない日常がそこにあったはずだ。特別なことは何もない。
カデンツァのところにも、スマイルブリンガーは来なかった。
来なかったのだ。
「おめでとう」
ようやくそう返せた俺の手をカデンツァは強く握り締めた。
お前はスマイルブリンガー。
姿形は違っても、今年は俺がお前のスマイルブリンガー。
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