耳元で金属質の声が響く。思わず顔を顰めた。
「穢らわしい、お金の代わりに心臓貰ってまるで娼婦だわ」
彼女の手が俺の装束をまくり上げる。コッシャレに伸びた手に身構えた。
「どうやってしたのよ」
「おい、クレア」
彼女を止めようと弛んだ男の手に彼女の叱咤。
「ちゃんと押さえなさいよ、もしかしたらついてないかもしれないじゃない」
その言葉にさすがに背筋が震えた。
どう見ても俺は平均的なヒュームの男で、女のような容姿をしているとは到底思えない。声も外見も男のそれだと分かるのに彼女は何を確かめようとしているのか。
見られる事への羞恥心など最早ない。怖いのは予想できない女の行動だった。何をするつもりなのか、彼女の手はコッシャレをゆっくりと引きずり下ろしていく。俺の腕を押さえている男が唾液を飲み込む音がやけに大きく耳元で響いた。
突然装束をはだけられて、彼女が笑い出す。
「あはは、男じゃないの。やっぱりアンタ男じゃない」
怖かった。
何が、とかではない。彼女が怖かった。薄暗い空間に響く金管楽器のような笑い声。
膝まで下ろされたコッシャレ、黒のアンダーウェア越しに分かる性器の存在。紛れもなく生物学上の男である証。
「信じられない」
そして続けられた低く、澱んだ声。
憎悪の籠もった、冷たい声。
アンダーウェアの上から強く性器を握られて、思わず身を捩る。男が慌てて俺の身体を押さえつけた。呻き声は押さえつけている男の手のひらに遮られたが、彼女の耳には届いたらしい。侮蔑の視線で俺を見下ろし、彼女は鼻で笑った。
「突っ込まれて喜んでここ勃たせてたんじゃないの、薄汚いホモ」
不意に振られた反り返る棍が、俺の頬をなぎ払った。同時に俺の口を覆っていた男の手も一緒に直撃を喰らったらしく、後ろで蛙の潰れたような声が上がる。覆っていた手のひらがなくなって、荒い息をつくとその開いた口に棍が押しつけられた。
唇をこじ開けてくるごつごつとした棍。
「いつもやってるみたいにしゃぶんなさいよ」
逆らわず口を開けば喉の奥まで一気に突っ込まれ、噎せ返る。彼女はそんなこともお構いなしに、俺の口の中を棍で突いた。しゃぶらせるというには程遠い、恐ろしく一方的な攻撃だった。それでも何度も繰り返し抜き差しされるうちに、棍の先は俺の唾液で鈍く光を返しはじめる。
その間彼女の細い指は俺の性器をアンダーウェアの上から擦り、刺激した。だけど、この状況下で勃起するほど俺の精神は強くなどなく。そもそも勃起するかどうかも怪しい俺だ。萎えたまま、少しも反応を見せない性器に彼女は苛々をつのらせていくのが分かった。
「どこまでも馬鹿にするのね」
そんなつもりは全くなかったけれど、何を言っても彼女の中で都合のいいように俺の言葉は変換されるだろう。
彼女は嫌がる連れの男に俺の性器を扱くように命令し、アンダーウェアをも膝まで下ろした。拓かれた膝の間、生白い、自分でも色が悪いと思う太ももが露わになる。男は涙声で勘弁してくれ、と何度も繰り返しながらも、結局彼女の言うがままに俺の性器を握った。
俺の腕を締め上げていた男の手は、腕に溜まっていたはだけられた装束に替わり、まるで後ろから抱き竦められるようにして伸ばされた男の手が俺の性器を擦り上げていく。膝で中途半端に止まったコッシャレとアンダーウェアが膝をそれ以上開くことがないように阻害して、思いの外身動きが取れなくなっていたことに驚きを隠せない。
男の手が、的確に性器を刺激する。
それでも意識が下半身に向くよりも目の前の彼女が気になった。萎えたまま全く反応を見せない俺に、とうとう彼女が言った。
「突っ込まれないと、勃ちもしない、ってわけ」
口から引きずり出された棍が、唾液の糸を引いたまま目の前に突きつけられる。
棍を握り締めた指は白く、微かに震えていた。
「望み通り突っ込んであげるわ、マクヴェルのではなくて残念だけど」
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