「アポリオン」とは、別の大陸の言葉である怪物を指すという。
意味は「滅ぼすもの」だとか。その姿は一見すると蛇のようで、煉獄の最下層、その中心でのたうっていると言われている。
そんな名前を付けられた自分たちが行く場所の中心にいるのが、誰が何のために、どんな目的で作ったか考えたくもないような試作生体兵器だった。
プロトオメガ。
ゆっくりとその巨体が砂のような奇妙な床に崩れ落ちた。
誰かの小さなやった、という声と共に、指揮を執っていたマクヴェルがたくさんの管のついた、未だ脈打つ心臓を高々と持ち上げる。何度もこの目で見ながらも、一度たりとも自分の手元にやってくることはなかったものが目の前にあった。複雑な気分の中、沸き上がる歓声。
他にもいくつかの組織が採取できたようで、数人がマクヴェルの指示の元、崩れ落ちたプロトオメガの足下へと向かった。
一時的に機能を停止しているに過ぎないプロトオメガは、暫くすればその驚異的な再生能力で再び起動するだろう。早く撤収しなくてはならない。ぼうっとそんな事を思いながらその光景を見ていたら、こちらを見たマクヴェルと目が合った。彼は僅かに口元を上げ、俺に笑いかける。その意図を測りかねた俺は、マクヴェルから視線を床に落とすとオイルにまみれた切っ先を払って誤魔化した。
メンバの興奮がすぐ近くで伝わってくるのに、俺の身体は急激に冷めていく。
手伝いは終わった。
早く帰りたかった。
「この心臓はカデンツァに。他は希望通り後肢はマーサ、前肢はゼファル」
あり得ないマクヴェルの突然の声に、今まで興奮していたその場が一瞬で静まりかえる。
「今、なんて」
そう言ったのは、前線で活躍していた金髪のヒューム。
彼女の声は僅かに震えていた。
「心臓が手に入ったら、次はわたしのはずよ!」
叫ぶ彼女。
だけど、マクヴェルが彼女に向かって発したのは冷たい言葉だった。
「時間がないから素早く指示に従ってくれ、後で説明する」
「リンバス」とは、天国と地獄の間に存在する第三の世界────
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