大聖堂にいた頃、セックスは一方的なもので苦痛でしかないと思っていて、その考えはつい最近まで多少の変化はあれど概ね変わらなかった。
当時から不能だとか不感症だといわれるほど俺の身体は反応が薄く、正直彼らの言うとおり勃起不全なのだと思っていた。元々そうだったのか、それとも大聖堂での経験がそうさせたのか、傭兵になってからも俺の身体はほぼ無反応だった。
ほぼ、としているのは単純に例外があったからだ。
その例外が、食事後という期間限定の発情期。
初めて飢えを感じ、初めて殺した魔物の臓腑を喰らった時、体の奥の方で燻った熱をどうすることも出来ずに持て余していた。
自分で擦ってみても、慣れない行為のせいか吐き出すに至らない上物足りなさだけがつのる。
どうしようもないまま突然鳴り響いた警鐘に慌てて宿舎を飛び出したものの、結局まともに戦うことも出来ず、壁際で蹲っていた俺に手を差し伸べたのがワーウードだった。
助けて欲しくて、二度目の彼の手を取った。
不思議な香の匂いに体が軽くなったと同時に、喰らった魔物が体の中で暴れるのを感じた。
実際俺を抱いたのはワーウードじゃなかったかもしれない。俺の意識は混濁していたし、あまりにもの気持ちよさにすがりついた腕は、ヒュームのそれではなかった気がしたからだ。
それ以来、燻った熱を冷ますために教えてもらった通りそういう行為を繰り返した。
体の奥底で燻る熱を、熱によってどうにかする。
手の届かない場所をどうにかしてもらえる。
俺にとってのセックスは一方的な侵略から飢えを溝たすものになった。
気分がよければ誰とでも寝る。
そう言われてもおかしくはない。”発情期”には本当に誰彼かまわず、手近な他人で”飢え”を満たしたのだから。
満たされるなら、どんなセックスでもよかった。
押さえつけられて無理矢理されようが、相手が複数だろうが、青姦だろうが。
優しくされたことなどなかったから、どういうセックスが普通なのかなんてその頃は知らなかった。手近な他人は性欲を満たし、俺は飢えを満たす。利害関係の一致による行為だったから俺のセックス観は変わらない。
勃たせて、入れて、出して終わり。
余計なことは何一つなくて、相手も俺もそれでよかった。
だから初めて優しく抱かれたとき、戸惑った。もっと激しくして、とお願いしたら、それじゃあ痛いだけだと言って本当にゆっくりしてくれた。そのとき、脳天を突き抜ける快楽とは違った、じわじわと追い詰められていく快楽が存在していることを知った。
今の俺の体を構築するまで、沢山の魔物を獣のように屠り、喰らい、血肉としてきた。そのたびに、空っぽになっていく心を、体を重ねることで満たしてきた。
いいとか、悪いとかじゃなく、これが俺。
だけど、今俺はただとなりにいるだけで満たされている。
不思議だなと思いながら、寝てしまったレヴィオの頬にそっと触れた。
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