子供のようだと思う。
なんでも口の中に入れて、それが食べられるものかそうでないかを判断する。
多分本人にその自覚はなさそうだ。
腹を満たす食には無頓着な癖に、飢えには忠実すぎるほどに欲望をむき出しにする。猛烈な渇きと飢えは最近ではそれほど襲ってこないようになったとは聞いたが、それでも最低限の餌は必要なわけで。最初は隠していたその飢えも、隠さないで正直に食べたいと言うようにもなった。
初めてエルシモ島に渡ったとき、魚のような獣人族のサハギンを見て、早速生のままかじろうとしていたのを慌てて止めたことがある。とはいえまだ白カブやサハギンなら分からなくもないが、それがエンプティやルミニアンになってくると最早食べ物ですらない。魂が宿っているのかすら理解の範疇を超えてくる。そういえばエンプティはコアをキャンディのように口の中に入れていたか。まだ食べ物っぽいな。
胃袋で飢えを満たすわけではないという。
だけど食べる、という行為そのものにカデンツァは生きる全てを詰め込んでいるように思う。体の中枢でもある心臓を好むところからも、なんとなくそんな意味があるように感じる。
だがそこに至った過程を考えるだけで俺はいてもたってもいられなくなってしまうのだが。
「死んだ肉じゃ飢えは満たせない」
そう抑揚のない声で言われた言葉だけがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
俺たちは後戻りできないところに立っている。
前だけを向いて、あるかどうかも分からない道を探って踏み出すしかない。
たとえ一歩先が迂回できない奈落だとしても、二人でならもう一歩進めると信じたい。
エンプティキャンディを子供のようになめていた無邪気な笑顔を守りたかった。
「あ、レヴィオ、ちょっとこれもって」
さきほどから大事そうにかかえた紙袋を渡されて、気になって思わず聞き返した。
「これなんだ」
「せんべい」
視線を袋の中にうつせば、見覚えのある紋様が見えた。
「おい、これマジックポットの」
「せんべい」
有無を言わさない抑揚のない声が俺を射抜く。
呆然とカデンツァの背中を見送る俺に笑いながらツェラシェルが教えてくれた。あれは最近ウィンダスの製菓会社がネタで出した正真正銘のマジックポット紋様入り割れせんべいなんだそうだ。ウィンダスで見つけ、面白いと思ってルリリと購入してカデンツァにあげたのだとか。
紛らわしい。ほんと紛らわしい。無知は罪だとプロマシアさんも言ってただろうが。
一人泣きそうな俺にカデンツァは振り返り、レヴィオも食べる、とポットの破片のようなせんべいを差し出した。
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