アルノー様に呼び出され、今日は何をされるのかと暗澹たる気持ちで部屋をノックすると、そこには出入りの仕立て屋がいた。
驚いて固まった俺をアルノー様は優しく部屋に招きいれ、仕立て屋に向かってこの子の為に修道衣を仕立てて欲しい旨を伝えた。仕立て屋はそれ以上のことをなにも聞かず、にこにことしてその場で俺の採寸を始める。その様子をアルノー様もまた、優しく見守るという俺にとってはこれ以上ないほどの恐怖を感じた時間だった。
採寸が終わるとアルノー様は仕立て屋に絹布を手渡し、金貨の詰まった皮袋をその上に乗せた。口止め料も込みなのだろう、重そうなその皮袋を仕立て屋は大事そうに仕舞い、別の修道士に連れられて部屋を出て行った。
「カデンツァ」
急に名前を呼ばれて思わず返事をする声が裏返った。
「そんなに緊張しなくてもよいのです」
そういうとアルノー様は俺の肩を本当に優しく撫でてきて、俺はさらに強張った表情を向けることになる。
「貴方宛に、神殿騎士団のジュベール様より絹布が贈られてきたのですよ。それで貴方の修道衣を新しく仕立てるようにと。絹布は珍しい大陸からの輸入品です。他にもいくつか装飾品の類があります。貴方からもお礼と感謝の言葉をしたためなさい」
その様子からアルノー様がとてもご機嫌であるということが分かる。多分、俺への贈り物と一緒にジュベール様より多額の寄付があったか、アルノー様にとって都合のよいことがあったのだろう。
ジュベール様は神殿騎士団でも位の高い方で、大聖堂との繋がりも深い。頻繁に大聖堂を訪れお祈りを捧げていく敬虔な信者でもある。俺への贈り物はジュベール様に限ったことではないが、この件はかなり特殊で、説明すると長くなるがジュベール様は俺の出自を知っている数少ない大聖堂関係者、ということになる。
だから俺はジュベール様を相手に娼婦さながら股を開くようなことをさせられず、表向きは大聖堂でお預かりしている男爵家の嫡子ということになっている。ジュベール様とは直接一対一でお話をしたことはなく、アルノー様に連れられてご挨拶だけした程度の関係だったが。
多分今回の贈り物も、見習いとはいえ男爵家の跡取りなのだからと気を這っていただいたに違いない。サンドリアにおけるアルタナ教総本山、大聖堂の立ち位置などは良く分かっておられる方だから、ヒュームの修道士を見習いとはいえ大聖堂に置くという意味も理解しているはずだった。特別扱いは出来ないが、これくらいならというジュベール様の心遣いなのだろう。
だけど俺にとって信仰は、出自や寄付金の額で決まるようなものではなかった。
もちろん穢れたヒュームである俺を、浄化するという名目での強要される体の関係が信仰となんの関係もないことくらい理解している。
たとえヒュームであっても、信仰には何の変わりもないはずだと思いたかった。
それを証明したかった。出来ると思っていた。
贈り物は花束でも珍しい大陸の織物でも名産品でもなく。
ただ俺の存在を認めて欲しかった。
ヒュームにも、深い信仰はあるのだと知って欲しかった。
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