「いいんじゃないスか」
やる気なさそうにそう言い放ったタルタルは中央に据えた水晶玉から目を離す。
わざわざ面倒な手間暇かけて水晶玉を作ってきてやったのにこのクソタルの態度はなんだ。むかっ腹たったが文句ひとつ言えない俺は小心者なのか。それとも単純に信憑性の欠片もない占いごときで一喜一憂する自分自身が悪いのか。
相性占いだけに使う水晶玉だと知っていたらこんな面倒な頼みごと受けなかった、と断言できないところが俺の微妙な気分を表していると思う。
「つか、アレでしょ。お兄さん。そこで焼きイカかじってるのが目当ての子でしょ」
両手を軽く広げて首をかしげる仕草でタルタルは大げさにため息をついて見せた。
タルタルの目線の先には、階段に腰掛けて先ほどバザーで買った焼きイカにかじりつくカデンツァがいる。
「ラッキーアイテム海産物。ね、当たってるでしょ」
音を立てるように水晶玉を手のひらで数度叩いたタルタルは、俺の顔を見上げてその小さな手を差し出した。
「俺は相性を聞いてる」
「別料金」
ふざけるなと喉から出掛かった言葉は、不意に近づいてきたカデンツァに遮られた。
「イカなくなる」
串に刺さったギガントスキッド、の残骸と言ったほうがいいレベルの串を差し出されて俺は最後の一口をかじる。口の中に広がった甘いたれがギガントスキッドのこりこりとした食感をまた格別にしていた。
「結構うまいな」
「だろ」
どこからかカデンツァが小銭を取り出したので、もう一本買いに行くのだと理解した。
「買ってくる」
そういい残して階段を駆け下りていくカデンツァの背中をタルタルと二人で見送って、しばしの沈黙。
「わかってんでしょ、相性なんてお兄さんがどう思ってるかだってことくらい」
タルタルはそういうとにんまりと笑った。
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