明け方、いまだ太陽の光が地平線を淡く染める時間。
凛と澄んだ空気が、身も心も引き締めてくれる時間。
俺の祈りは、ここから始まる。
日課、というよりはこれが一日の始まりだった。
物置という自室に小さく添えつけられた、換気のための窓。立て付けが悪く、開けるには少しこつがいるものの、もう随分と慣れた。ここから、朝日が徐々に地平線を越えてくるのを見る。
何事にも動じない、朝の澄んだ光は、前日までのありとあらゆる事を綺麗に浄化してくれるようで好きだった。胸の前で手を合わせ、そこから両腕を前に真っ直ぐに伸ばし、膝を落として一礼する。
朝日がその姿の全てを晒し出す頃、今日のお勤めが始まる。
聖堂の窓を開け、新鮮な空気と取り入れる事。
そして、聖遺物堂にてムシャヴァッド様の足下を照らす蝋燭を、絶やさぬように取り替えること。
パジサリ様に言い付けられたとおり、蜜蝋から作られた蝋燭を抱え地下の聖遺物堂へと降りる。
元々サンドリアでは蜂蜜が取れにくく高価であることから、蜜蝋は信者の方や、冒険者の方々にお願いして寄進して貰っている。毎日沢山の方から寄進される蜜蝋は、修道士で手分けして倉庫に運ぶ。当然だけれど感謝の気持ちを忘れてはいけない。
地下はカビ臭く、ひんやりとしており、苦手だ。それに聖遺物堂は、俺にとってあまりいい記憶のある場所ではない。毎日足を運んでいても、その扉を開けるときは少しだけ緊張するのだ。
「失礼します」
中に誰もいないことが分かっていても、声を掛ける。
それはムシャヴァッド枢機卿への言葉であり、けして自分のためではない。そう言い訳しながら。
静まりかえった聖遺物堂で、絶えざる炎はただ煌々と揺らめく。
ため息を飲み込んで、ムシャヴァッド枢機卿に一礼すると、俺はこの場所から逃げ出すように足早に扉へと向かった。嫌な予感がしていたのかもしれない。
扉に手を掛けて、俺はその嫌な予感が的中したことを知った。
「よう、カデンツァ」
「相変わらず早いな」
俺が開くより先に開かれた扉。
俺の進路を塞ぐように立つ見慣れた修道士たち。
「お、はよ、うございます」
唇に笑みを張り付かせ、朝の挨拶を絞り出した。その声は自分でも驚くほど震えていた。
「レヴィオいねぇな」
肩を掴まれて聖遺物堂に身体を押し戻されると、俺は自ら後退し距離を置く。
「お前の周り、最近やつがずっといてさ」
「やれ今日はダメだの、明日は別の予定があるだの言いやがる」
「お陰でもうお前と一ヶ月ご無沙汰なんだけど?」
そんなの、知らない。
最近確かに近くにレヴィオがいることが多くて、呼び出される回数も減った。みんなもう厭きたのだと思っていたのだ。
「予定なんてないんだろう?」
「知りません」
「知らねぇわけ、ないよな」
俺の腕を強く掴み、彼は俺の身体を引き寄せる。
「本当に」
知らなかった。
レヴィオがそんなことをしていたことも全て。
「なぁ、カデンツァ。一ヶ月ぶりなんだ、楽しませろよ」
そう耳元に唇を寄せられて囁かれる。
そうだ。俺に、選択権はない。
此処にとどまることを選んだあの日から、俺に選択肢というものは存在していないのだ。
男の腰に跨って、自分からペニスを身体の中に呑み込まされた。
両手を男の腹につけて、無遠慮な突き上げに身体ごと翻弄される。口から漏れるのは苦痛と、突き上げられる衝撃を和らげるためのうめき声。
「カデンツァ、動けよ」
そんなこと、言われても困る。ただでさえ俺の身体には大きすぎるペニスを咥え込まされているのだ。こんな状態で動くなんて冗談じゃない。
中を擦るなんて可愛らしい表現では済まない。よくまあこんなものが俺の中に入るもんだと感心するくらいだ。
首を横に振って無理だと意思表示をすると、鋭い風を切る音と共に、背中に激痛が走る。
悲鳴を上げたんだと思う。
「動けってんだろ」
再度振り下ろされた、細く、しなるような何か。
それがチョコボ用の鞭だと気づくのに時間は掛からなかった。まるで鳥に跨るような俺の背中に、何度も何度も振り下ろされる鞭。振り下ろされるたび、俺の身体は男の上で酷く、揺れた。
「あぁ、締まっていい」
締まって、いい、とか、馬鹿みたいだ。
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