突き刺さった剣を通して、握る手のひらに伝わるか細い躍動。
失われていく魂の力が、文字通り手に取るように分かった。
「覚えてるから」
切っ先をゆっくりと引き抜き、代わりに左手を傷口から差し入れた。本当に小さく、今にも消えそうな鼓動が指先に触れた。温かいそれは、小さくて、掴んでしまうと途端に大きく跳ねた。急速に失われていく手のひらに掛かる重み。もしかするとこれが、魂なのかもしれない。
強く掴んで、一気に自分に引き寄せると、見慣れた赤の塊が姿を現す。
とくん、と誰がそう言葉として表現したのか、文字通りそれが音をたてて動いた。
動く度に指を、手を、腕を、染めていく流れ出した「赤」。
腕を伝った「赤」が俺の身体を、腹を、繋がった場所もゆっくりと染め上げていった。
「おやすみ」
そっとそれに口元に寄せて、そう囁く。
東の国の伝承に従えば、それが魂の器だ。そんなはずはないのだろうけれど、ここにその人の全てが詰まっているという。きっと、思い出とか、記憶。全て此処に在るのだ。
それは、きっと俺のなかで眠る。俺が生きてる限り。
痙攣するかのように動くそれを、ゆっくりと口に含み、俺は─────一気に喰らいついた。
闇に染まるワジャーム樹林。
軟らかい土の上でのたうつ触手は、まぐれもないソウルフレア幼体のものだ。
「ふっ、あ、う」
言葉にならない呻き声が乗る短い吐息。
広げられた脚の間で、触手だけがただ蠢く。大きく息を吸い込んで、最後の触手を歯を食いしばって引き抜いた。内壁をひっかいていく触手に、思わず喉の奥から変な声が漏れた。
滲みだした涙が頬を伝う。
荒い息をついて身体を折りたたみ、腰の裏側に響く感じたくもない熱に気付かないふりをした。普段の自分からは想像も出来ないほどがちがちに堅く勃起したペニスが、折りたたんだ身体の腹に擦れて気持ちが悪かった。
血の味に我を忘れた身体が熱を求めていた。
自分では、けして手の届かない身体の中心で、燻る小さな焔。
飢えの後、いや、正確には、飢えに耐えかねて喰らった後の、正常な反応とでも言うべきなのか。一体何に興奮しているのか、そういった外道な行為そのものなのか。体内に飼う魔物が与えられた血肉に狂喜乱舞して、暴れ回っているのだと勝手に結論づけた。
結局この無意味な熱を冷ます為に手っ取り早い方法が、俺がずっとしてきた忌まわしい行為だったわけだ。
たどり着いた先の答えに、最初は自嘲じみた笑いしかでなかった。結局俺は何一つ変わってないんだと、浅ましく力を求めた結果は、結局最初に戻っただけだったなんて。
そう思ったら、我慢なんてしなかった。
とにかくこの火照りを、この熱をどうにかしたい。自分で慰めてどうにかなるときもあったけれど、大抵は見知らぬ誰かの手を、身体を借りた。誰でも良かった。男でも、女でも。この身体の熱を、消してくれるなら本当に誰でも。
過去俺の身に降りかかった様々な出来事は、今の俺を形成する一つの大きなきっかけになった。
日常生活において、あまり一般的な食欲がないこと以外、何も不自由することはなかったけれど、唯一普通の人と相違していたのは性欲だった。
誰かが言ったと思う。多分、ベッドを共にした誰かだ。
俺は勃起不全なのだと言った。
早い話が、何をしても勃たない。
触っても、しゃぶっても、擦ってもだ。どれだけ興味のない相手でも、外的な刺激があれば僅かでも反応するはずの性器は、まるで感覚器が全てなくなってしまったかのように無反応だった。それで困ったか、と言われるとたいして困ったことなどなかったけれども。
原因は明らかだった。
心因性によるもの。
|