腰を引くと、ぎゅっと締め付けられる。
押し進めれば狭い肉を割っていくような、まるでもみくちゃにされるような感触に一瞬で頭が真っ白になりかけた。
驚く程、気持ちがいい。
何度も考えた、カデンツァとのセックス。見ているだけだった行為を、今、自分がしていた。もたげるのはやはり罪悪感。だが、この行為はあの頃のものとは違う。無理矢理押さえつけた、一方的なものではない。
「あぁ、あ、───うぁっ」
ゆるゆるとギリギリまで引き抜いて、腰ごと前に突き出した。カデンツァの背中が反って、俺の腕を掴んだ指に力が込められる。ぎゅうっと閉じた目、唇を噛みしめる表情。そのどれもが、与えられる快楽に対する反応だと理解して、胸が痛いほどに締め付けられた。
こんな表情、初めてだった。
知っているのは苦痛に歪むだけの表情。セックスが快楽だなんてまだ知りもしないような子供が、ただ欲望を吐き出すための捌け口にされていたあの場所。冷たい床に押しつけられ、おざなりに振りかけられたオイルだけで毎夜身体を拓かれ、意識がなくなっても足腰立たなくなるまで手酷く犯される。
そんな行為に、快楽があるなんて思いも寄らなかったはずだ。
熱で流れ出してしまったのか、効果の薄まったサイレントオイルが動く度に隙間から音を立てて溢れこぼれる。俺の性器を身体の内側ではっきりと意識したのか、カデンツァの身体が跳ねては俺をきつく締め付けた。
これ以上動いたら、まずい。
腰を止め、目の端に涙の痕がついたカデンツァに口付けた。尻を抱えて、腰を揺らそうとするカデンツァを押さえ込んで落ち着こうと息をつく。
「やばい、すぐ出そう」
「いいから、出して」
中でいい、そう言われてカデンツァが身を捩った。
結合がぐっと深くなって、驚いたカデンツァが無意識に俺を締め付ける。熱い内側が一気に俺に絡みついて、うねった。それは限界に近かった俺を解放するのには十分過ぎて。
「中はよくな、」
───いだろう。
必死で堪えようとしたにもかかわらず、俺は言葉も息も詰まらせ、直後あぁ、と短いため息とともに肩を震わせた。
出た。出した。出ちまった。
どこまでも続くような開放感に力が抜ける。
「すみません」
カデンツァが驚いた様子で俺を見上げるから、思わず謝った。
早くて、すみません。
中に出してすみません。
「いや、いきなり出されてびっくりしただけ」
そう言ってカデンツァは俺を慰めると、ベッドについていた手をとってそっと口付ける。
嗚呼、穴があったら埋まりたい。
「まだ続けられそう?」
「いけます」
慌ててカデンツァの腰を掴むと、自分の出したものが音を立てたのが分かった。たったそれだけなのに、やたら興奮するのは、カデンツァと身体を重ねているからなのだろう。かたさを取り戻す自身にホッと胸をなで下ろした。
ずっと見ていた。
だけど混ざりたかったか、と言えばノーだ。一緒になってそんなことをしたいわけではなかった。今していることと、それと一体何が違うのかと言われたら言葉に詰まる。でも違うと思いたい。信じたい。
セックスは、一方的な快楽を得る行為じゃない。
二人で、するものなんだ。二人で気持ちよくなる行為なんだ。
さっさと出しておいて偉そうには言えないけれど、気持ちよく、なってるんだよな。お前も。
「じゃあ、もう一回そのまま」
カデンツァの腕が俺の身体を引き寄せて、俺はまたもや快楽の海へ身を投げることになった。
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