いくら軽装と言っても、鎧は身体を守るものだ。
長い時間をかけてようやくカデンツァは鎧の大部分を脱ぎ終わり、コッシャレを床に落とす。ゆっくりと下げていた視線を少しずつ戻せば、カデンツァの身体に残る土と、血の痕。カデンツァ自身のものではないだろうそれは、まるで浴びたようにも見えた。
服の上から染みたような血痕。太股に残った指の痕。
それが人のものか、それとも魔物のものか。俺には問いかけることが出来ないでいた。
そしてさらに視線をあげれば、黒の下履きをはいた上からでも分かる、勃起していると分かる、性器。その視線を感じたのか、下履きに手を掛けたカデンツァが、恥じらうこともなくそれを脱ぎ捨てた。
腕を取る。
コックを捻ると熱い湯が床を叩いた。あっという間に湯気がバスルームを満たし、カデンツァの輪郭を朧気にする。早くなっていく心臓の鼓動を隠すかのようにカデンツァを抱き込んで、頬の泥を、胸の血痕を洗い流した。
狭いバスルームに響くシャワーの音とお互いの息づかい。
肩、腕、指先。
爪の先に至るまで丁寧に洗う。
洗ったばかりの指を唇で咥えて、手はそのまま腹から下半身へと滑らせた。初めて触る、勃起したカデンツァの性器。ゆっくりと握り込めば、カデンツァは小さなため息を漏らした。軽く擦りあげながら、指の腹を使って腰から尻を洗う。
引き締まった小さな尻。
太股についた指の痕、こびり付いた血だ。
内ももにぬるついた体液を感じ、思わず息を詰める。
想像しなかったわけではない。熱っぽい身体、勃起した性器。
ここに来るまでに、誰かとそんな関係を結ぼうとしたのかもしれないし、無理矢理事に及ばれそうになったのかもしれない。それとも、もう済ませてきたのかもしれない。
だけどそんなことはもうどうでもよかった。
カデンツァは、ここに来て、一人で処理出来なかった熱を、俺の手に委ねた。
自分の意志で。
俺を、選んでくれた。はっきりと。
俺は今、それに応えてやらなければならない。だけどそれがイコール、即身体を繋げることだとは思わない。例えそれが気持ちを確認する手段の一つだったとしてもだ。無理に身体を繋げる必要はないはずだ。
項に口付けながら緩急を付けて性器を擦る。
「ん、待って」
服を来たままの俺の下半身にカデンツァの手が伸びた。こっそりと勃起していた性器を握られて俺はたじろぐ。すぐに手は離されて、そのままカデンツァは振り返ると俺の唇に軽くキスをした。
ゆるめのハウスウェアを引っ張られ、濡れた下着が俺の勃起した性器をそのまま映し出す。カデンツァが俺の前に跪いたのを見て慌てて腕を取って引っ張り上げた。
「そんなこと、しなくていい」
いらないのか、という不思議そうな表情で見上げられ、心が痛んだ。
カデンツァはそうすることで男達が喜ぶ事を知っている。
そうすることで自分が楽になることを知っている。
一度吐き出させてしまえばインターバルが必要な事も、回数が減ることも、老齢のものに至ってはそれだけで満足してしまう事も、全部俺が教えた。
俺が、そう、教えたのだ。
「俺が、してやる」
カデンツァの細い肩をバスルームの壁に押しつけて、今度は俺がカデンツァの前に跪く。当然だが、俺の人生で男の性器を口に含んだ事なんてあるわけがなかった。いや、普通の男ならないのが当たり前だ。されたことはあっても、すること、する機会なんてあるわけがない。
フェラチオは男のロマンだとか、誰が言ったのか。クソ。俺の迷いを見透かしたようにカデンツァが笑った。
「無理しなくていい」
「違ぇよ、初めてだからシミュレートしてたんだ」
どうせなら気持ちよくしてやりたいしな、と本音も混ぜておいた。だけどカデンツァは少しだけ躊躇って、いいから、と俺を押しのけてしまった。
「どうせなら、あんたと気持ちよくなりたい」
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